第4回目のゲストはこの人、DeNA『三国志ロワイヤル』のプロデューサー、山口恭平さんです。
なお、第5回のゲストはアカツキ『サウザンドメモリーズ』の塩田元規さん。このインタビューを読んで気になっていただけた方は、9月30日発売の週刊アスキーをチェックしてみてくださいね。
↑DeNAプロデューサー山口恭平さん、スクウェア・エニックス安藤武博氏(左) 三国志ロワイヤル■ コンサル営業職から一転クリエイターにデビュー作で多くのファンを掴む
安藤武博氏(以下、安藤):今回は『三国志ロワイヤル(以下、サンロワ)』のプロデューサー山口さんを召喚しました。実はサンロワはリリース当初にかなりやり込みまして、昨年末には他のメディアですが僕のイチオシアプリとして紹介しているんです。久しぶりに触ったら新しいシナリオや演出が追加されていたりして、今また一所懸命遊んでいます(笑)。相変わらずシンプルかつ面白いですね。
山口恭平さん(以下、山口):ありがとうございます!
安藤:リリースされてから8ヵ月が経ちますが、その間にCMも放映されて、リア充OLが出てくるタケノコ荀彧(じゅんいく)のCMなんかもありましたよね。
山口:CMは1月と4月の2回やりまして、タケノコ編は4月です。1月のCMとはうって変わってナンパな感じになりました(笑)。
安藤:硬派だったサンロワが“みんなのサンロワ”になった(笑)。あの路線変更に初期からのファンはビックリしましたけど、女性ファンは増えたんじゃないですか?
山口:あれ以降ライトな方向に打ち出すようにしましたので、データとして詳細にはとっていないんですけど、増えたと思います。
安藤:このゲームのすごいところは、気軽にも遊べるし、ちゃんと遊ぶこともできるデザインになっているところです。戦場ではターンが限られていたり、先制攻撃が圧倒的に有利だったり、序盤でもしっかり考えないと負けてしまうようにつくられている。そこはライトではないけれども、ほどほどに手ごたえが出るようになっている。三国志のゲームはどうしてもコアな方に振りがちですが、入り口が広くて奥が深いという、理想のゲームデザインなんですよね。山口さんもブラウザの時代からソーシャルゲームを手掛けられてきたと思うんですけど、手練のゲームデザイナーがいた場合に成り立ちやすいんですよ、こういう洗練されたデザインって。
山口:いえ、実は僕にとって、これが初めての作品なんですよ。
安藤:これがデビュー作なんですか!?ゲームをつくること自体初めてですか?
山口:初めてです。もともと僕はコンサル営業職に就いていまして、モバゲーにゲームを提供して下さる企業様とのやりとりを担当していました。一応ゲーム制作のすぐ側で仕事をしていたんですけれども、去年の4月、僕が2年目の時にゲームをつくれという話になって、じゃあ三国志を、と。ゲームデザインは基本的に僕が1人で全部やりまして、三国志が好きなスタッフといっしょに企画を出し合いながらつくりました。
安藤:それはすごいな。初めてだったからこそできたことや、大胆にやれたことはありますか?
山口:運営の経験がなかったのはすごくよかったと思います。アプリで何ができるかを考えたときに、運営のことよりも、いかに面白いゲームをつくるかに集中できたんです。リリースしてから運営でしんどい思いをしましたけど(笑)、今思うとゲームをつくっているときはなんにも捕らわれませんでしたね。
安藤:自由につくれたわけですね。
山口:もし初めてでなかったら、成功したゲームデザインをなぞってしまったかもしれません。「『怪盗ロワイヤル』のここがよかったから、それをベースにしよう」となると、どうしてもそちらに引っ張られてしまう。それがなかったから面白いものを追求できたんじゃないかと思います。
■ 三国志への愛が秀逸なレベルデザインを生み出した
安藤:記念すべきデビュー作のサンロワは、運営もきちんとしておりファンに愛されるゲームになりましたよね。リリースから今までの約1年を振り返ってどうでしたか?
山口:やっぱり早かったですね。出してからずっと、面白い機能とかユーザーが望んでいるものとか、いかにマニアックにつくるかということをひたすら考えていました。それだけに多くのお客様に受け入れられてよかったと思いますし、やっぱり三国志はすごいなと思ったのが正直なところです。
安藤:三国志のどのあたりがすごいと思いました?
山口:物語に登場する武将を本当に見た人っていないじゃないですか。でも関羽といったらヒゲが長いイメージがあって、呂布なら強くていかつい印象がある。そこをずらしたら受け入れてもらえないし、逆にうまくつくるとユーザーさんが喜んでくれるんです。三国志の関羽という人がいなかったら絶対にこの世界は成り立たないし、見たことがないのにみんながイメージを共有している。やっぱり圧倒的な作品だなと思います。
安藤:サンロワはならではのキャラづけもあると思うんです。たとえばこれまでの馬謖(ばしょく)は控えめなイメージがありましたが、サンロワの馬謖はオラオラ系で向こう見ずだったりして、これまで日本人がつくってきた三国志のキャラクター設定からはずしたり、逆に深めていくこともやっている。三国志ものの中でもキャラが立っていると思うんですけど、ほかの三国志とサンロワはここが違うぞ、という部分はありますか?
山口:いちばんこだわったのはビジュアルでしょうか。みんな身長がいっしょで体格が似てしまうので、表情を変えたりシワを増やして差別化しました。そういう部分を喜んでくれるユーザーさんも多くて、こだわってよかったなと思います。
安藤:パラメーターの低い武将だと情けないビジュアルになりがちですけど、サンロワではそういう武将もしっかり描かれていて、“一介のもののふ”として成立しています。それはすべての武将への愛というか、狙ってやっていることなんですか?
山口:そうですね。歴史に名が残っている時点でとんでもない人たちだと思いますし、そういう人の武力が10しかなかったらやっぱりヘンかなと。そのあたりのリアリティーは大切にしたいねとみんなで話しながらつくりました。
安藤:確かに、それはすごく感じます。このゲームでいちばん悩んだのは、レア度★2のキャラクターをいつ部隊のスタメンからはずすかだったんです。いちばん最初に手に入る劉備と関羽と張飛のレア度は★2ですが、主役級にカッコいいビジュアルなので、レア度★3の武将が増えいっても心情的にはずっとスタメンで行かせたい。本当に捨て際が難しかった。そういうプレイ感覚はほかの三国志のゲームでは、なかなか無いので、すごく新しいなと思いました。
山口:シナリオの後半に行くとレア度の高い劉備たちが仲間にできるので、初期の★2の劉備たちと代替わりできるようになります。
安藤:パラメーター設定で迷った武将はいましたか?
山口:敵キャラでありました。最初につくったものを上司の渡部辰城に遊んでもらったときに、「呂布が弱すぎる」と言われたんです。当初はかなりライトで、サクサク進むレベルデザインにしていましたから。
安藤:僕の元同僚の渡部さんですね。もっと強くすべきだ、とアドバイスされたわけですか?
山口:そうです。コア向けで、三国志がすごく好きな人をターゲットにしてレベルデザインし直したんです。もう一度渡部にプレイしてもらったら「全然勝てない」と。「勝てないけど楽しいからもう一度、いや何度でもやりたい」と言われました。
安藤:なるほど。
山口:レベルデザインってすごいなと思いましたね。ちょっといじっただけで、自分で遊んでも感触が全然違いますし、そもそも答えがないじゃないですか。すべてのユーザーが触るということ、そこをいかに組み立てていくかということ、そういう考え方を僕は持っていなかったんです。最初は正直、離脱ポイントなんかを考えながらつくっていたんですけど、でも大事なのはゲームの面白さで、どういう人が遊んでどういう人が面白いと思うのか、そことずれていないかという意見を社内でうけました。
安藤:DeNAには渡部さんをはじめ、『栄冠へのキセキ』や『マジック&カノン』を手がけられた馬場保仁さんのように、ゲームの本質を熟知してデザインされてきた方が在籍しているので、そのへんの融合がうまくいったんでしょうね。
山口:そうですね。
安藤:サンロワを遊んで思ったのは、DeNAさんのゲーム作りがまた新しいステージに進んだということです。離脱ポイントに捕らわれるのではなく、ゲームの面白さを優先する。そういうバランス調整を施すのって本当に難しいし、決断が必要ですからね。
山口:ありがとうございます。結果的に離脱もなかったんです。
安藤:ないと思いますよ。敵の部隊もそれぞれの武将に合った動きをちゃんとしますし、どうやったらキャラクターを活かしながら面白いゲームをつくれるかを考えながらレベルデザインしたのがよくわかります。実は僕は、渡部さんに直接メールしているんです。「これをつくった人はすごいね」って。かえすがえすもデビュー戦でよくやってのけましたよね。ゲーム屋の我々としてはうかうかしていられないですね(笑)。
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