※本記事は週刊アスキー6/10号の『中の人特捜部』を再編集したものです。
“野生のTOTO”とニコ動画で絶賛される
'13年3月、ネットでは 『俺たちの1/12男子便所』というプラモデルの発売が話題になっていた。便器やタイルの壁などが含まれるキットで、市販のアクションフィギュアを組み合わせていろいろなシチュエーションを再現するために利用。同じシリーズには『洋式便所』や『和式便所』もある。
もともとユニークな商品だったが、2ヵ月後の5月、便器自体を改造した『【俺たちの男子便所】水洗化してみた』という動画がニコニコ動画に投稿されたことで、さらに注目度が高まった。大人の手にすっぽり収まるほど小さな便器に、自作した金属の給排水管を設置。壁にセンサーを付けて、人が離れて一定時間たつと水が流れる機構も組み込まれていた。
謎の努力は見る側に大いにインパクトを与え、コメントが殺到。“野生のTOTO”や“才能の排泄”といったタグも付けられ、いくつかのネットメディアが取り上げたこともあり、現在、再生数は25万を超えている。
そして今年3月には、“洋式便器”の改造動画を投稿。こちらはスイッチでフタと便座を開閉できたり、ウォシュレットを備えていたりと、さらに至れりつくせりだ。ともに海外の動画共有サイトにも転載されて、「なぜここまでやるんだ?」と驚きのコメントが寄せられたこともあったという。
masa
本業はプログラミングやドキュメントの作成など。趣味として、ニコニコ動画に工作や機械の解説動画を2010年から投稿している。現在、54歳。
模型のトイレになぜそこまで!? 水洗トイレをリアルに再現
●1/12スケールで男子トイレを忠実に再現
【俺たちの男子便所】水洗化してみた
●便座とフタが連動して開閉!
【俺たちの洋式便所】日本の心配りを実装してみた
●リアルを追究して試行錯誤の繰り返し
便器自体の仕組みは、2度の失敗を経ることにより、成功にたどりついた。 ウォシュレット機構は、配管途中のゴムが引っかからないようにするのが難しかったという。●まさに趣味の城!
masaさんの作業部屋は、木材加工用、電子工作用、そして本業をこなす仕事場と3室(!)もある。旋盤やオシロスコープなど、ニコニコ技術部員垂涎の道具やパーツがずらり。苦労した排水機構初めて動いたときは感動
なぜこの作品をつくったのか。投稿者であるmasaさんを取材すると、「男子便所と洋式便所の2つのプラモデルが発売されたから、これはやらないと」と思って着手したという。
特に苦労したのは排水システムだった。物体はサイズが小さくなるほど、水から表面張力の影響を受けやすくなる──12分の1サイズのトイレプラモも例外ではなく、たんに配管しただけでは水は流れず、水滴となり、つまって便器からあふれたりしてしまう。そこで、実際のトイレの図面も参考にして、管の形状や水圧の制御を工夫した。特に“洋式便器”は難しくて、最初の便器は試行錯誤しているうちに割ってしまった。2つめの便器は排水管が太すぎて収まらず、“3度目の正直”でようやく成功に至った。
「自分でつくったので動きや構造がわかっているにもかかわらず、はじめて動いたときには感動してしまいました」と語るmasaさん。ニコニコ動画に“誰がここまでやれと言った”というタグが付けられるという目標も達成した。
ちなみにかかった費用は、灯油ポンプやマイコンボードなど1~2万円ほどだという。
小学生から始めたプラモは“動くおもちゃ”
masaさんのプラモデル人生は、今から45年ほど前の小学生からはじまっている。当時、モーターがついた戦車のプラモデルを砂場に持って行き、でこぼこ道を走らせて遊んでいたそうだ。プラモデルというと、近年は塗装や背景をきっちりつくり込んで飾る鑑賞作品としてとらえられることのほうが多いが、masaさんにとっては昔のすり込みがあるので、プラモは“動くおもちゃ”なのだという。今回、トイレを水洗化したのもそのへんにルーツがあり、動いてこそということなのだろう。
masaさんは、本業ではプログラミングや各種ドキュメントの執筆などをしている。ここ数年、ものづくりが原点だと思い直して、'10年からニコニコ動画のニコニコ技術部に参加し、9作品目、10作品目の投稿で今回のヒットを生み出した。
気になる次回作だが、トイレ以外でいくつかアイデアがあるという。金属や木材の加工、電子工作、プログラミングなど幅広い技術をもつmasaさんが、何を生み出すのか期待したい。
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