山崎浩一さんによる週刊アスキーで連載中のコラム『今週のデジゴト』が電子書籍になりました。タイトルは『山崎浩一のデジゴト画報―3Dプリンターの幻想、音楽の未来、リベンジポルノまで』。アマゾンやブックウォーカー、楽天ブックス、iBooks、Googleplay、Kinoppyなどの電子書店さんでお買い求めいただけます。価格は各書店さんごとに異なるのですが、だいたい300円前後となっているものの微妙に違ったりしますので、すいません、詳細な価格については、各書店さんのサイトでご確認ください。
掲載しているものの中からひとつ、山崎さんと担当おすすめのコラムをお届けします。お読みいただいてご興味が出てきた方は、ぜひ電子版の購入をご検討ください。よろしくお願いします!
愛とセキュリティー
真実の愛がないとホックが外れない!?
ランジェリーブランド「Ravijour」(ラヴィジュール)のデビュー10周年を記念して、運営元のベリグリが、世界初となる真実の愛がないとホックが外れないブラ「TRUE LOVE TESTER」を開発した。▼このブラは、内蔵したセンサーで女性の心拍数を計測し、Bluetooth経由で専用デバイスに通信して解析。心拍の変化率などから“TRUE LOVE RATE”を算出し、これが一定値を超えると、ロックが自動解除されてホックが外れる仕組み。(1月24日付『ねとらぼ』)
なるほど。ブラジャーに内蔵されたセンサーが女性の心拍信号を読み取る。そのデータを専用アプリに送信して心拍の変化率と時間を計測する。その結果、算出された数値が一定値を超えた場合のみブラのロックが解除され、ようやくホックが外れるという世界初の仕掛けというわけか。おおっ、これは便利……なのだろうか? 仮に便利だとしても、いったいだれにとって便利なのか? どんなケースを想定して便利だというのか? いや、本気でわからないのだ。教えてエロい人。
いったいテクノロジーとは、イノベーションとは何なのか?だれのどんなニーズやメリットのために開発されるのか?――そんな根源的な問いかけを私たちに突きつけずにおかない、これは確かに画期的商品であるかもしれない。
その「真実の愛」を判定する“TRUE LOVE RATE”とやらが、いったいどのような研究や統計から導き出されたものかはともかく、そもそもブラジャーというものにこれほど過剰なまでのセキュリティー機構を搭載し、しかもそれを解除できるパスワードが「真実の愛」であるという発想の動機が謎なのである。
たとえば……いや、私が書いてしまうよりも読者のみなさんのお好みのキャストやシチュエーションで、このブラが機能を発揮して活躍しているケーススタディーを想像力たくましく思い描いてみてほしい。どうせ自由な妄想なのだから遠慮は無用だ。私の表現の自由には限界があっても、あなたの内心の自由は100%保証されている。さて、どうだろう? あなたの妄想のなかで、このブラはどのように機能していただろうか?「真実の愛」はどのように試されていただろうか?
頭隠して尻隠さずになるのではないか
おそらくまず問題になったのは、いったいだれの「真実の愛」が試されるのかだと思う。そう、試されるのはブラ装着者の側の真実であって、ブラをなんらかの目的で離脱させたい側のそれではないのだ。つまりブラ装着者の自由意志よりもセキュリティー機能が優先されるのだ。いや、自由意志にこそセキュリティー機能がかけられているとさえ言えるだろう。これに近い機能を備えるインナーウェアといえば、やはり貞操帯であろう。ご存知のように貞操帯とは装着者の意志によって自由に着脱できるものではない。とすると、このブラが想定している消費者とはだれなのだろうか?
もちろん「なんらかの目的で離脱させたい側」が強圧的な手段に出るケースでは、このセキュリティー機能はとても有効に働くかもしれない。が、このケースにおいても、そのセキュリティーが委ねられているのは、あくまでも装着者側の心拍情報なのである。それを受信した専用アプリが装着者の不安や恐怖による心拍情報を「真実の愛」によるそれと混同して誤作動する可能性については、コメントを控えたい。それは高度の専門領域に属することであろう。
コメントを控えたいといえば、もうひとつ私があえてコメントを控えている問題があることを賢明な読者ならすでにお気づきのことと思う。
そう、つまり、その……ブラだけでは片手、いや頭隠して尻隠さずになるのではないかという点である。ブラ段階ではセキュリティーがめでたく機能したとしても、その次の肝心な、いやより高いハードルは無防備なままでよいのだろうか? そこに大きなセキュリティーホールが残されたままであるのなら、元も子もないのではあるまいか。「それを言っちゃおしめえよ」であることは承知の上だが、この前座のあとには真打ち商品がすでに控えていることを期待したい。
ネタにマジレスな無粋な文章になってしまった。申し訳ない。個人的には、こういうデジモノは大好きである。週刊誌の「死ぬまでSEX、死ぬほどSEX、死んでもSEX」記事を愛読するオヤジたちにもバカ売れすることを願っている。