りゃん のコメント

「崩壊 朝日新聞」(長谷川 熙著 2015年)という本があります。発売当時はそれなりに有名になりました。
著者は朝日新聞の記者だった方です。

内容の詳細は図書館ででも借りて読まれれば良いと思いますが、さしあたってその本の第二部第二章の「尾崎秀実の支那撃滅論の目的」がゾルゲ事件を扱っています。

そこからちょっと著者の文を引用してみます。

『尾崎は諜報だけではなく、言論や、日本の中枢に直に働き掛けることによって日本を破滅の進路に誘導し、世界の共産主義化をめざすコミンテルンの戦略に必死に奉仕しようとしていた』

『尾崎のこの供述(※)を、支那事変に関して分かり易く言えば、こうだろう。ソ連を守って強大化させる一方、この日支間の戦争を激化させ、日本を消耗させて日本国内にも共産主義革命を起こさせ、一方で、(略)支那も共産主義国家とし、日支共に世界共産主義革命へと役立たせるべきで、蒋介石の国民党政権との日支和平のごときはとんでもないと自分は考えている、ということだ』

『日本で共産主義革命を起こすためには支那事変も大東亜戦争も大変に好ましく、とことんこの戦争を激化させ、完遂して日本を疲弊させるべきであると尾崎は考えており、これはマルクス・レーニン主義そのものである。計り知れない人命の犠牲、人々の不幸、悲惨は感傷心に過ぎず、そのマイナスはプロレタリア独裁の共産主義世界を実現するための単なる必要経費とみるのだ』

『ゾルゲ・尾崎事件を巡る関心は以前から主としてその諜報工作に絞られてきたが(略)それにも増して注目しなければならないのは、当時の日本の対外進路が、南進論・対米英強硬論の尾崎によっていかに巧妙に誘導されたかである。支那事変、大東亜戦争で交戦の双方が共滅すれば、なおさら御の字だが、日本だけ負けても、尾崎にとってはそれでもよかったのだ。朝日新聞の紙面があれほど凄まじい「暴支膺懲」「鬼畜米英撃滅」の紙面展開となり、そして軍部とも足並みをそろえ得たのは、(略)』

そしてこの章の最後はこう結ばれます。

『対米英開戦を、マルクス主義が社内に広がる朝日新聞社がいわば拳を振り上げて軍部に強要しているのである』

ゾルゲ事件は、今の日本にすむわれわれにとっては、尾崎秀実と朝日新聞の戦争誘導工作の点から振り返ることで、ものごとを考えることに資する点が大きいとおもいます。

※「りゃん」による注:この供述とは東京刑事地方裁判所検事局の検事尋問に対する供述です。

No.1 90ヶ月前

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