こんにちは~!
今回はライターの加賀美サイさんに『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』の書評コラムを寄稿いただきました(全文無料で読めます)
以下、後編では「男の子たちがマン・ボックスに縛られず、自分らしい人生を歩むには、どうすればいいのか?」について書かれています!
■「新しい男らしさ」のカギは包括的性教育
では、男の子たちがマン・ボックスに縛られず、「自分らしい」人生を歩むには、どうすればいいのでしょうか?
ヒントは、<男の子たちには、共感し、つながり、優しさと愛情を感じ表現する能力があるのだから、そういった性質を促す方法を見つけさえすればよい>という一文に詰まっています。
そのカギとなるのは、男の子への「包括的性教育」です。
社会からのマン・ボックスの押し付けに伴い、男の子たちは、たとえ恋愛やセックスの経験がなく、性的に無知であっても、セックスのリーダー・支配者・主体者でなければいけないという<社会的期待>をかけられています。
本書を読む限り、これは強烈なプレッシャーです。
そのような<社会的期待>をかけているくせに、男の子への性教育は充実していません。男の子が性被害者になるケースもあるのに、そのケアやサポートもほぼ足りない。
<性教育関係者によると、性の健康に関していちばん見過ごされている層は、異性愛者の若い男性>という指摘もあります。
また、ギーザ氏が取材したアメリカの性教育団体「アンサー」の研修担当ディレクター、ダン・ライス氏によれば、<「男の子のルール」や「男のルール」では、表現することが許される感情は、怒りと苛立ちしかありません。自分の感情を表現することが社会から認められていない、あるいは表現のしかたすら教わっていない>ため、<優しさと思いやり>を覚えさせる教育や指導が、女の子ほど重視されない。
こうした問題が原因となり、いじめや性的嫌がらせ、性暴力が引き起こされることがある、とギーザ氏は述べています。
絶望感すら覚えますが、希望はあります。それこそが、包括的性教育です。
ギーザ氏は、一例としてオランダの包括的性教育を紹介、絶賛しています。
<生殖や性的指向や性の健康について事実に即した教育を行いながら、同時に、コミュニケーションや合意形成や自己認識の能力を育てるという、包括的な性やパートナー関係についての教育において、オランダは間違いなく世界一である>
<(略)授業の基本になっているのは、親と先生はセクシュアリティ教育について真剣に考えるべきであり、健康でポジティブで楽しい性生活は基本的人権である、と言う考え方である。>
具体的な内容については本書で確認して頂きたいのですが、オランダで男の子に行う性教育は<愛情や親密性を求める気持ちが強調され、認識され、普遍化され>る教育です。
愛情や親密性の育みを大事にする性教育により<男の子たちは、楽しいセックスと健康的な恋愛関係は、支配とコントロールではなく、敬意と双方の充足感から生まれるのだという意識をもつようになる。>
これが、オランダの性教育の成果です。
カナダのアルバータ州にある「カルガリー・性の健康センター」が、9年生の男の子たちを対象に行う「ワイズガイズ」(訳:賢い男たち)も、注目に値する性教育プログラムとして紹介されています。
その成果報告と、参加した男の子たちの声を見てみましょう。
<ワイズガイズでは、定期的にプログラムの成果を審査しているが、参加した少年たちがとくに大きく進歩している評価分野として一貫しているのが「情緒性」である>
<(略)ワイズガイズでもっとも役に立ったことは何か、という質問に対しては、マン・ボックスについて意識するようになったこと、そして、健康的な人間関係を維持する方法を学んだこと、という答えが挙がった。
傷つきやすさも含めて、感情を表現しやすくなり、安全なセックスを実践し、健康的な恋愛関係や性的関係が維持できる能力が身に付いた、と彼らは言う。>
■男の子たちにも励ましと応援を
本書の感想を「社会は男の子たちを放っておき過ぎた」と表現しましたが、私がそう感じた理由が少しでも伝わったでしょうか。
男の子の心や内面の育みは、余りに放置されてきてしまった。
だから今後は、男の子たちがもつ優しさや思いやりを潰さず、不安や恐怖などの「弱さ」も責めず、自分の感情を認め、素直に表現することを促す接し方や教育をする時代にしていくべきだと、私は考えます。
個人的には、日本でも包括的性教育は絶対に絶対に必要だと思います。
ジェンダーギャップ指数が過去最低を記録したニュースを見て、もはや日本の性教育の改革は喫緊の課題の一つだと感じました。
巷では、こんな言葉が囁かれることもあります。
「男は誰に教わるでもなく、自然と性を学ぶもんだ」
「男は放っておいても勝手に一人前になる」
こんなのは、大ウソです。
もういい加減、そんなのは幻想であり、男の子にも女の子にも、多様な性自認をもつ子どもにとっても、対人関係や人生に害悪をもたらすことを認識するべきです。
考えてみれば、ヘンです。人間は大人や社会から「教育」を受けないと、育ちようがありません。
知恵も情緒もコミュニケーションも自立も、子ども一人の力だけで得られるもの、勝手に身につくものではないはずです。そこには必ず、大人や社会の介入とサポートがありますし、必要です(だからといって「過保護」は推奨できません)。
なのに「男は放っておいても勝手に一人前になる」を信じ続け、男の子たちへの性教育や情緒的教育、心のケアなどを放置し続けた結果起こっているのが、『ボーイズ』で指摘されているような性暴力、パートナーや周囲とのコミュニケーション不全、精神疾患の発症、いじめ、助けを求められない、自殺といった問題です。
女の子であることを理由に医大の入試を落とされたり高等教育を受けたりする機会を奪ってはならないのと同じように、男の子であることを理由に「多少乱暴な方が元気でいい」とか「男は好きな子ほどイジメたくなるもの」とかの言い訳を盾にして、思いやりや優しさ、感情との付き合い方や表現方法を教える機会を奪ってはならないのです。
どちらも、個人の人生に多大な弊害をもたらします。
本書が明らかにしたのは、マン・ボックスが象徴する「男らしさ」とは、男の子の生まれつきでも脳のせいでもなく、社会の空気や環境、文化、大人たちの思い込みが作り続けており、刷り込み続けているという事実です。
「『女らしさ』は生まれつきじゃない。家事スキルが高い、男性より目立つことはしない、性的に大胆ではない、そういった性質は『女が生まれつき備えているもの』という認識はもうやめてくれ。社会が勝手に築き上げた『女らしさ』は幻想であり、女全員がそんなわけない」
私を含む女性の多くがそう思っているでしょうが、「男らしさ」が抱える問題も何も違わないことがわかる一冊です。
『ボーイズ』に一読の価値があるのは、非常に多角的な視点と緻密な調査から「男らしさ」の幻想を暴き、弊害の証拠を示し、最後に「新しい男らしさの考え直し」の素材となるものを、人権教育も含む包括的性教育として提示し、希望を見せてくれるところです。
ですので、最後に、最も希望を感じさせてくれたギーザ氏の言葉を紹介してこの記事を締めたいと思います。
<まず私たちにできるのは、女の子を教育し、励ましているのと同じやりかたで、男の子たちを教育し励ますことだ。
(略)だから私たちは、これまで女の子たちにしてきたのと同じように、男の子たちにも、ジェンダーの規範や制限に立ち向かうことを応援してあげなくてはならない。
(略)自分の感情を言葉で表現する方法を教え、助けを求めてよいのだと教えなくてはならない。彼らが、優しさや慈しみの気持ち、豊かな表現力や傷つきやすさを見せることができるような機会をつくらなくてはならない。セックスや恋愛やコミュニケーションについて彼らに語らなくてはならない−−
(略)私たちは、均一な集団としてではなく、複雑で個性のある人間として、男の子たちを見つめなくてはならない。すでに、変化をけん引している若い男性たちはたくさん存在する。
(略)それぞれが、ジェンダーという地形の中に、より大きな自由地帯を開こうとしている。それぞれが、健やかな感情と思いやりの心をもった若い男性たちを育てようとしている。
すべての人々にとってより良い世界ーーより安全で、正しく、公平で、幸せで、偏見がなく、自由な世界を目指すなら、私たちもあとに続こう。>
加賀美サイ/作家ライター。エッセイ、(私)小説、ファッション×詩を配信。
私が読みたい「私の雑誌」をコンセプトに、性(ジェンダー)・エロ・精神障害・生きづらさ・恋愛・文学・芸術・サブカルなどをnoteで書いてます。ちなみにADHD。日々もがいています。
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オタク格闘家と友情結婚した後も、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!!
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