こんにちは~!
今回はライターの加賀美サイさんに『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』の書評コラムを寄稿いただきました(全文無料で読めます)
さて。
私が「男らしさ」について、「男らしさ」が男性に与える影響と弊害について知りたいと思ったのは、なぜか?
それは大切な友人たちが「男の子の母親」として、息子を育てているからです。
ジェンダーギャップ指数121位のこの国で、息子をどうすればジェンダーイコール男子に育てられるか?どうすれば彼らがジェンダーの呪いに縛られず、自分らしく、幸せに生きていけるか?
それを真剣に考える友人たちのためにも、加賀美サイさんに今回の書評をお願いしました。
以下は『ボーイズ』からの引用です。
<若い男性たちのあいだで(略)支配的でタフな男らしさを体現しようとする傾向は、うつ、薬物乱用、いじめ加害、非行、危険な性行為、性的満足度の低さ、パートナーへの虐待などと関連付けられている>
<逆に、男らしさのルールに同調しない男の子たちや、その基準を充分に満たせない、あるいは満たそうとしない男の子たちも、いじめのターゲットになったり、ばかにされたり、排斥されたりというリスクを負う>
<男の子は女の子よりもコミュニケーション力が低く、弱さを見せたり親密な関係を築いたりすることが苦手だという考えが定着しているが、男の子も同じくらいそれらの能力をもっていることを(参考文献の著者)は明らかにしている>
<赤ちゃんの頃から、男の子たちは感情を無視したり抑制するように、さりげなく、あるいは無意識のうちに指導されていることや、大人は男の赤ちゃんを攻撃的・反抗的であると受け止めていることを示す研究もある>
<(略)研究からは、親は子どもと感情について話すときに、子どもが男の子の場合よりも女の子の場合のほうが、長く複雑な語彙を使うことがわかっている。
こうして、男の子はもともと競争意識が高く感情面で鈍感であるという誤った社会通念は強化される。
その結果、男の子が成長していくなかで、親密な友達関係を築き維持するのに役立つ共感力やコミュニケーション能力といったスキルが育成されることは少なくなるのだ>
なんと!赤ちゃんの時からジェンダーの刷り込みは始まっているのですね。おそろしや。
こちらに興味をもった方はぜひ、以下のコラムを読んでみてください!
■暴力的で鈍感なのは「男はそういう生き物だから」?ー『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』書評
■はじめに
初めまして!ライターの加賀美サイです。
アルさんの著書やコラムを愛読する方々の殆どがそうでしょうが、私も皆さんと同じく、自身をフェミニストと自認しています。
noteやツイッターでジェンダー関連のコンテンツを発信することも多い私に、アルさんから『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』という本の書評依頼を頂きました。ありがとうございます!
フェミニズムやジェンダーに興味のある方、自分をフェミニストと思う方はぜひぜひ『ボーイズ』もこの書評も読んで頂きたいのですが……その前に、「前提」として皆さんにご理解頂きたいことがあります。
それは、そもそも「フェミニズム」という思想を私がどう捉えているか?です。
答えは、以下の文章にあります。
<フェミニズムとは、(略)《性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動》のことだ。(略)この定義が気に入っているのは、男性を敵だと言っていないことだ。問題は性差別だと、ズバリ核心をついている。(略)問題は家父長制であり、性差別であり、男性支配である>
これは、『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』という一冊からの引用です。著者でフェミニストのベル・フックス氏(アメリカ出身の黒人女性)は、フェミニズムをこう定義し、問題は男性中心社会だとはっきり言っています。
私はフックス氏の定義と主張を軸に性差別の問題を考えたり捉えたりすることを意識しているため、『ボーイズ』の書評もこの定義や考え方を前提に書きます。
なぜわざわざこんな話をしたかというと、もし読者の中に「フェミニズムは男性への憎悪・嫌悪・排除が含まれる思想」とか「フェミニストの『くせに』男の問題まで考えるの?」と思う方がいらっしゃるならば、この記事はオススメ出来ないからです。きっと不快感を覚えると思います。
また、誤解しないで頂きたいのは、この記事は「女性より男性の方が可哀想」とか「女性の方が得をしている」などと主張するものではありません(支配層側にいる・支配を維持する側にいるからこその問題の根深さやエグさはあると思いますが)。
男性中心社会によって差別や暴力を受けている女性を無視したり、女性差別を矮小化したりする考えも一切ありません。
私自身は、フェミニズムが目指すのは性差別がない世界だと捉えていますが、それには女性、男性、その他の性自認をもつ<みんな>と問題解決に向けて手を取り合う必要がある、と考えています。
なぜなら、この世界は女性だけで成り立っていないからです。
女性、男性、その他の多様な性自認の人たちがいて、社会も世界も成り立っているから。
いきなり私自身のスタンスの話をして恐縮ですが、この前提を踏まえて頂いた方が『ボーイズ』が訴えていることを伝えやすいと思ったので、時間を割かせて頂きました。
それでは内容を紹介していきます!
■「男らしさ」が男の子たちに与える影響と弊害
『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』は、カナダのジャーナリストであるレイチェル・ギーザ氏(レズビアンで妻と養子の息子と三人家族)の著書です。
簡潔にいうと、この本のテーマは「従来の男らしさのあぶり出し・新しい男らしさの考え直し」です。
また、私の感想を一言で表すと「社会は男の子たちを放っておき過ぎた」になります。
はじめに、以下の文章を紹介させてください(□は注釈になります)
(※女の子に対してはジェンダーに基づく偏見への反論や証拠が用意され始めており、女の子はなんにでもなれる!自信持って!といった激励や応援が世界中で増えているのに)
<しかし男の子と男性に関しては、私たちはいまだに、彼らの問題点も短所も、そして長所も、生物学的な結果なのだという考えにしがみついている。
(略)私たちは、男の子の問題行動を当たり前で生来的なことのように扱い、「男の子だからしょうがない」という考えを肯定することにより、危険行為であれ性暴力であれ成績不振であれ社会的孤立であれ、男の子の苦境や欠点の陰にある、男らしさというイデオロギーを見逃してしまっている。>
もう少し踏み込むために、孫引きになりますが、ギーザ氏が本書内で引用している、私が冒頭でも紹介したベル・フックス氏の主張(『変わろうとする意志:男性・マスキュリ二ティ・愛』より)も載せます。
<フェミニズムの過失のひとつは、「新しいマスキュリ二ティや男性のありかたについてのガイドラインや方策が必要であるのに、その土台となるべき本格的な少年時代研究をしていないことだ」>
『ボーイズ』が試みたことは、まさにフェミニズムが見落としていた<本格的な少年時代研究>です。
『ボーイズ』では、
・「男らしさ」とは一体何か?
・男の子の成長過程において「男らしさ」はなぜ、どのように内面化されるのか?
・社会的圧力としての「男らしさ」がもたらす問題は?
・「新しい男らしさ」とは?
など、「男らしさ」や男の子の成長をめぐる問題点を、大量の文献と専門家への丁寧な取材、数値的データをもとに超!多種多様な視点から考察しています。
本書内で言われる従来の「男らしさ」とは何か?
それは、「マン・ボックス」という概念です。
いわゆる典型的・伝統的な「男らしさ」を表すマン・ボックスには、こんな言葉が含まれます。
<タフ、強い、大黒柱、プレイボーイ、ストイック、支配的、勇敢、感情を出さない、異性愛者>
ほかにも「リーダー」や「ボス」といった言葉が該当します。
逆にマン・ボックスに入らない言葉はというと、
<弱虫、ホモ、オカマ、女々しい、マザコン>
大学でマン・ボックスの講義を行うジェフ・ペレラ氏は、マン・ボックスが象徴する従来の「男らしさ」を<柔らかい・優しい・感情的・フェミニンといった印象を与えるものすべての否定によって成立している>と説明しています。
ギーザ氏はペレラ氏に、男の子がどれぐらい早い段階でマン・ボックスのメッセージを受け取り、どう捉えているのかも取材しました。
<ペレラは4年生の男の子50人のグループがどのくらいマン・ボックスの規定を内面化し始めているのか調べたときの話をした。自分が男の子でいやだな、と思うことを子どもたちに書いてもらったところ、(略)「男の子はくさい」「暴力が好きなことになっている」「フットボールをしないといけない」「自動的に評判が悪い」「泣いたらだめなこと」「お母さんになれない」……。
(略)スペル間違い混じりのつたない字で書かれたリストを見ると、私たちの心はさらに痛んだ。まだ単語のつづりは正しく書けなくても、ジェンダーのルールは理解しているのだ。>
少なくとも、つづりも正しく書けない年齢の段階で彼らはマン・ボックスのメッセージをバッチリ受け取ってしまっているわけですが、ここで、私が最初に引用したギーザ氏の文章を見返すと繋がるものがありませんか?
要するに、本書が訴えているのは、男の子が「男らしく」育つ理由は、社会的・文化的・環境的な影響であり、それを受ける年齢も早い、ということです。
本書が様々な根拠や実例をもとに一貫して主張しているのは、ジェンダー的に「社会化」することが、男の子を「男らしく」しているという事実です。
でも、その事実は社会的にほとんど認識されておらず、無視されている。
その一例が、「男はそういう生き物だから」とか「『男脳』には狩猟時代の本能がインプットされている」とか、なぜか男の子や男性のことになると、都合よく生物学的・脳科学的な見解を出しがちな風潮です。
本書は、その見解は事実に基づいているのか、逆手に取るように生物学・脳科学的データを用いて検証しています。
ギーザ氏は、「従来の男らしさのあぶり出し」作業に必要な、重要な概念としてマン・ボックスを用い、男の子が「男の人」に成長する上で、マン・ボックスは彼らの認知やメンタル、対人・恋愛関係などに多大な影響と弊害をもたらすことを繰り返し説明します。
マン・ボックスはなぜ弊害なのか?こんな指摘があります。
<学校という場所では、多くの男の子が、自分はマン・ボックスの基準から外れているんじゃないか、自分はクールじゃない/人気者じゃない/タフじゃないんじゃないか、という恐れを感じ、不安になりがちだ。その根底にあるのは、自分がターゲットにされる(※いじめや仲間外れなど)のではないかという、非常に切実な恐怖である>
<(略)若い男性たちのあいだで、ステレオタイプどおりのマスキュリ二ティに則り、支配的でタフな男らしさを体現しようとする傾向は、うつ、薬物乱用、いじめ加害、非行、危険な性行為、性的満足度の低さ、パートナーへの虐待などと関連付けられている。
逆に、男らしさのルールに同調しない男の子たちや、その基準を充分に満たせない、あるいは満たそうとしない男の子たちも、いじめのターゲットになったり、ばかにされたり、排斥されたりというリスクを負う。>
何度も何度も、男の子たちのマン・ボックスから外れることへの恐怖心と不安心が生々しく述べられているのです。
とくに深刻な問題として指摘されているのは、男の子は女の子よりも先天的に鈍感で、同情心や情緒に欠けるという誤った社会通念です。
その社会通念に基づいた大人たちの態度や教育が、男の子たちが本来持っているコミュニケーション能力や他者への思いやり、共感力といった<感情的スキル>、<社会的スキル>の育成を阻んでいます。
<男の子は女の子よりもコミュニケーション力が低く、弱さを見せたり親密な関係を築いたりすることが苦手だという考えが定着しているが、男の子も同じくらいそれらの能力をもっていることを、ウェイ(※参考文献の著者)は明らかにしている。
(略)赤ちゃんの頃から、男の子たちは感情を無視したり抑制するように、さりげなく、あるいは無意識のうちに指導されていることや、大人は男の赤ちゃんを攻撃的・反抗的であると受け止めていることを示す研究もある>
<(略)研究からは、親は子どもと感情について話すときに、子どもが男の子の場合よりも女の子の場合のほうが、長く複雑な語彙を使うことがわかっている。こうして、男の子はもともと競争意識が高く感情面で鈍感であるという誤った社会通念は強化される。
その結果、男の子が成長していくなかで、親密な友達関係を築き維持するのに役立つ共感力やコミュニケーション能力といったスキルが育成されることは少なくなるのだ。>
つまり、大人や社会は、男の子に対する「思い込み」(男は●●な生き物だから的な)のせいで、ハナから彼らの情緒的発達を期待しておらず、女の子に比べて情緒的教育を徹底しないのです。
<感情の断絶>が<鬱や暴力や自殺につながる傾向>が、明らかになっているにも関わらず。
男の子への思い込みの根強さが、男の子の可能性の芽を潰している。ジェンダーの根深い闇と恐ろしさを感じます。
こうして大人や社会が男の子への思い込みを維持し続け、マン・ボックスの体現を期待し、男らしさのプレッシャーを与え続ける限りは、<うつ、薬物乱用、いじめ加害、非行、危険な性行為、性的満足度の低さ、パートナーへの虐待>や強い孤独感、不安定な対人関係、社会での孤立といった問題は続く。
それは、同じ社会で共生する女性やその他の多様な性自認をもつ人にも飛び火する。私はそう考えます。
―後編に続く。
加賀美サイ/作家、ライター。エッセイ、(私)小説、ファッション×詩を配信。
私が読みたい「私の雑誌」をコンセプトに、性(ジェンダー)・エロ・精神障害・生きづらさ・恋愛・文学・芸術・サブカルなどをnoteで書いてます。ちなみにADHD。日々もがいています。
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オタク格闘家と友情結婚した後も、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!!
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この意見は正に自分に当てはまるので今の社会は生きにくくて仕方がないですね。中程度の鬱にもなったし、楽に死ねる方法をネットで探したりしましたし。
後半も読ませて頂きましたが、オランダのような教育を一刻も早く日本も取り入れるべきですね。「男らしく」を勝手に自分の都合のいいように決めるな!!と言いたいです。