『オクテ女子のための恋愛基礎講座』発売にあわせて、社会学研究者でBL研究家の金田淳子さんと、「オクテ男女の恋愛と結婚と性」について語り合いました。

『オクテ女子のための恋愛基礎講座』(幻冬舎文庫583円)

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金田淳子/
社会学研究者。BL・やおい・同人誌研究家。
東京大学法学部と文学部を卒業後、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。
文芸批評誌『ユリイカ』のボーイズラブ特集や『美術手帖 特集:ボーイズラブ』に企画段階から協力。
共著に『オトコのカラダはキモチいい』 『文化の社会学』等。ホウドウキョク内のフリーダムな番組『真夜中のニャーゴ』金曜23時05~に出演中。
『オトコのカラダはキモチいい』公式チャンネル(二村ヒトシ・金田淳子・岡田育)

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アル:「結婚はしたいけど、婚活するのが面倒くさい」という人は多いですよね。たしかに婚活ってすごく大変だから「やるぞ!」と本気出さないとできない。

女友達で2人、子宮筋腫が見つかったのをキッカケに“本気スイッチ“が入った子がいるんです。
大きな筋腫だったので、医師から「子どもを望むなら今のうちに手術した方がいい」と言われて、「子どもはいつかほしいな」と思っていたのが「絶対ほしい」に変わったらしい。2人とも婚活して1年以内に結婚して、今では母親になってますよ。

金田:なるほど。子宮筋腫というのはお気の毒なことですが――まあ女性にとっては比較的ポピュラーな病気ですから、他人事とすましてはおれませんが――そういうキッカケがあると、人生を真剣に考えるだろうし、「自分が本当にほしいもの」が明確になるかもしれませんね。

アル:「子どもがほしい」と明確になったことで「子育てするパートナーとしてどうか?」という目で異性を見るようになったそうです。そんなふうに基準も明確になったから、婚活も成功したんだろうなと。

金田さんは『オトコのカラダはキモチいい』で『正直言えば、恋愛せずに生きていけたらいいなと思っている。でも大抵の人が何度か、腐女子生命の危機にさらされる』と仰ってますよね。

『恋愛や結婚にあまり興味がなくても、親の手前、結婚を考えなきゃいけなくなったり、やっぱり子どもがほしくなったり。その段階で腐女子をやめるか、腐女子を隠して嫁に行くか、腐女子を理解のある相手を探すか、選択を迫られる』と。
…これについて、金田さんご自身はどうですか?

金田:実は私は結婚したいという気持ちになったことがほぼ一度もなくて。
自分の性格や環境がちょっと特殊だったのかもしれないけど、うちは両親がかなり残念な形で離婚してるせいか、結婚や、夫婦という人間関係の形に夢を持ちにくかったですね。

でも別にそれを根に持ってるということはなくて、むしろ、両親が私たち幸せ!みたいなゴールデンカップルだったら、向いてないのに自分もそれを目指してしまったかもしれないので、はじめから目指さずに済んだ点は、両親に感謝しています(笑)
…あと私、結婚式というのに対して、自分がやるとしたら悪夢としか思えないんですよね。

アル:私も結婚式はしてないです。結婚式するぐらいだったら、泥レスとかしたい(笑)

金田:そうそう!泥レスとかね、コスプレパーティーとか。お披露目的なものが必要なのであれば、みんなでワーワーやる以外は考えられないというか。

アル:私も「結婚」に対するキラキラした憧れはなかったけど、「パートナーがほしい」という想いは切実にありました。

『VERY妻になりたかった母の死』という記事に書いたけど、うちも両親が離婚していて、私は18歳で両親と絶縁したんですよ。だから「自分の家族がほしい」という気持ちがすごく強かった。
金田さんはパートナーもいらないですか?

金田:生きていけるだけの金と仕事と健康さえあれば、全くいらないですね。自分のそばにパートナーとして1人の男がいるっていうのを想像できない。

アル:子どももいらないですか?

金田:子どもも想像したことがないですね。申しわけないんですが、私、子どもの形状が苦手なんですよ。頭が大きくて等身が低い。

アル:まあたしかに(笑)

金田:あと、言っていることが通じない。自分も昔そうだったから別にいいんですよ。
ただ人が子どもをほしいのは、社会や親兄弟に要請されるからだけではなく、ある程度は、かわいいから欲しいんでしょう?でも私は赤子や子どもをあまりかわいく思わないんですね。やっぱり少しはかわいく思ってないと、ほしくならないですよ。

アル:私は友だちの子どもとか「かわいいな」と思うけど、それと自分が産みたいのとは違いません?「赤ちゃんを抱くと女は母性が芽生えてほしくなる」とかいうけど、私は「大変そう、やっぱ自分にはムリ」という想いが強くなる。
あと人間の子どももかわいいけど、猫のほうが一万倍かわいい。

金田:申しわけないけど、猫のほうがかわいいに決まってますよ。あとおっしゃる通り、猫はともかく、人間の子どもを成人するまで育てるには、それなりのお金と労働が必要ですから。

アル:うちは猫が2匹いるんですが、人の子を育てるよりずっとラクだしお金もかからないし、かつ一万倍かわいい…となると、そっちでいいやとなりますよね。

金田:そうなんですよ。だから本当に子どもをほしい人だけ生んで育てればいいと思いますよ。もちろん新しいメンバーの育成は社会にとって重要なことだから、親だけに任せるのではなく、そこに税金やリソースを十分に使ってほしいですし。
もし近所の子どもを集めて数時間ずつきちんと世話するみたいな制度があったとしたら、自分もそれは大人の役割としてやぶさかではないです。

アル:かわいくないなと思いながら(笑)、子守をするんですね。

金田:全くかわいくねえなと思いながらね。ただまあ、触れてるうちにだんだんその形状に慣れるんじゃないでしょうか。

アル:だんだん言ってることも通じだすかもしれないし。

金田:だんだん通じだして、それによって自分がかわいいと思う可能性もあるじゃないですか。

アル:ETとかはかわいいと思うんです。

金田:いや、ETは知性があるからね。あれは大人だから。

アル:そうか(笑)。でもオクテ女子や腐女子でも「旦那はいらないけど子どもはほしい」という人、多くないですか?

金田:いるいる。それも30過ぎてから、やっぱり生んでおきたいっていう人が結構いる。なんでほしいの?って聞くのもあれだから、聞いてないけど。

アル:「自分が愛情を注いで、自分のことも愛してくれる存在がほしい」という声も聞きますね。それなら猫でええやんか、と個人的には思っちゃうんですけど。
あと「女は子どもを産んで当然」「産まなきゃ一人前じゃない」と刷り込まれているとか。「親に孫を見せてあげたい」という人も多いですね。

金田:うちの母も、実は孫は見たいらしいんですよ。それを言わないように頑張ってるのは我が母ながら立派だなと思います。母は、実は赤ん坊のことが大好きらしくて。道で赤ん坊を見ると「わー」って近寄って行くみたいな。それを見て私は「へー、本当に、好みがちがうな」って。

アル:等身が低いのにって(笑)

金田:だから本当は心から孫を見たいんだと思うけど、すまんねっていう。うちの親は昔から、基本的に放任主義なので助かっています。

アル:「親も安心させたいし、孫を見せてあげたいし、周りも結婚していくし、老後も不安だし、世間のプレッシャーもあるし…」とグルグル悩む人は多いですよね。
そのグルグルを整理して「自分はどうしたいのか?本当にほしいものは何か?」を考えた方がいいと思う。そのために、新刊で紹介した『10枚のカードを使った思考の整理術』を試してほしいです。

金田:『自分でほしいものがわかってないと、手に入れようがない』って、その通りですもんね。
あと『結婚すれば不安がなくなるのは錯覚。むしろ結婚によってリスクや背負うものは増える』というのも、本当にそうだなと。

アル:夫が転勤やリストラや病気になるかもしれないし、子どもの問題や親せきづきあいや夫の親の介護といった問題も出てくる。そういう現実を踏まえたうえで考えるべきですよね。

金田: 私も、ここまで雇用の流動性が高い現在では、結婚したら家計が安定するとか、子どもを産んだら老後が安心とか、80年代までのような確実な期待は持ちづらいと思っています。

仕事を持っている女性にとっては、むしろ結婚はギャンブル性が高いかもしれない。夫が自分にDVをしてくるかもしれないし、借金を作るかもしれない。共働きなのに、夫が妻に家事労働を押し付けてくるというのもよく聞く話です。

そしたら、生きていくためという目的だったら、結婚よりも、仕事を増やすほうがいいのでは?と考える。1人の人間と契約関係に入るのは、会社と契約関係に入るのとはわけが違うから。

アル:本当にそうですよね。それに「老後が不安だから結婚したい」というけど、老後のために気の合わない人間と何十年も暮らす方が不幸じゃないですか。
私は「パートナーは夫じゃなくてもいい」という意見です。

母が亡くなった時、意識障害の状態で数か月間入院してたんですね。その時に夫が親身に支えてくれて「この夫と結婚してよかった」と思ったし「支えてくれない夫だったら、いないほうがマシだ」とも思った。

同時に「パートナーは夫じゃなくてもいい」とも思った。私には弟がいるけど遠方に住んでいるので、頼りになったのが叔母だったんですよ。叔母は母の妹なんですが、両親の介護経験があったので。
それと女友だちもすごく支えてくれました。特に年上の友人たちは親の介護を経験していて、親身に相談に乗ってくれて。
だから、きょうだいなり親せきなり女友だちなりのネットワークを持っていれば、なんとかなると思った。あとは金ですけどね。

金田:そうですね。人生の少し先輩の方々が相談に乗ってくれるのは、何より頼もしいでしょうね。
私の周りでも、中高年で結婚していない女性は、孤高の存在というよりは、だいたい女友だちが多いように思います。
ある程度ネットワーク化されていて、相互に相談したり、一時期身の回りのことを頼める程度の友だちが数人いると、かなり心強いでしょうね。いざというときに身の回りのことも相談できないような異性と結婚するよりは。

アル:だからやっぱり「考えた方がいいよ」と思うんですよね。
本当は特に結婚したくないのに、結婚しなきゃとか、結婚できない自分はダメとか悩んでる時間はもったいない。だったら「友だちを大切にして、ネットワーク作りをしていこう」とか考える方がいいですよ。

金田:オタクの友人たちとよく話しているのは「私たちは将来オタクのままボケたりするんだろうから、オタク専用の老人ホームがあればいいよね」って。
それこそみんな手塚治虫の『火の鳥』を持っていて、本棚がパンパンになっているけど、オタク専用老人ホームなら、それ1セットでいいじゃんって。1階が書架になっていて、みんなの蔵書を集めておけるといいねとか。

アル:その頃は全て電子書籍化されている気もするんですけど(笑)、やっぱ原本じゃないとダメなのかな?

金田:いやーやっぱ老人だから、キンドルとかについていけるかどうか(笑)

アル:でもキンドルは字を大きくできますよ。

金田:そうか、目が悪くなった時に便利かも!
そういうオタク老人ホームがあれば、みんなで80歳になってもカップリングでケンカとかして、楽しく暮らせるんじゃないかって。

アル:私も友人たちと、おばあさんシェアハウス計画を話してます。既婚組も「旦那が先に死んだら、マンション売って引っ越すわ」と言ってて。
女子校時代に「将来一緒に住めるといいね~」と話していたけど、なんか本当になりそうな気がする(笑)

金田:そういえば私も中学時代に友だちと「将来一緒に住みたいね」みたいなことを、夢物語のように話してましたね。でもかなり近い将来、オタク老人ホームは本気でアリだなと友達と話してます。まあ何事も金がないとできないけど。

アル:郊外や地方に行けば中古物件は安いし、みんなでお金を合わせれば、何とかなるんじゃないですか?たとえば1人500万あれば、4人集まれば2000万になるし。
おばあさんハウスのお金の管理は、公認会計士の女友達に頼もうと。歯科医の女友達は「老後、入れ歯は任せろ!」と言ってます。

金田:女友達とそういう話をしていると、老後も楽しく暮らせる気がしますよね。

アル:独身の子たちも「安心した、老後に希望がもてた!」と言っていて「やっぱ本気で結婚する気ないんやん」って(笑)

現時点で65歳以上の女性の55%がシングル(死別・離婚・未婚含む)なので、私たちの老後は未婚の割合が大幅に増えて、シングルだらけだと思うんですよ。その頃には、おばあさんシェアハウスやオタク老人ホームといった事例も増えてるんじゃないかな。

金田:オタク老人ホームは必要ですよね。オタクの老人とオタクじゃない老人が混在して、「この人ワケわかんないこと言ってる、ア・バオア・クーって何…?」みたいに、周りの老人たちが不安な気持ちになるのも避けられるし。

アル:私も「ゲルググが…ジオングが…」とか呟いて「このおばあさん、大丈夫?」と不安視されるかも(笑)

金田:ネタか認知症かわからないっていう(笑)

アル:でも80歳になってもカップリングで喧々諤々(けんけんがくがく)議論していれば、認知症にならずにすみそうですね!

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