今回は、昨年の11月に出版した
【サヨナラ!操作された「お金と民主主義」なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった】
にページの都合上で掲載できなかった、人間の心理の根本「欲望、理性、気概」
について論じた文章を転載する。
民主主義が、世界に広まり続けている理由を、政治学者のフランシスフクヤマ氏の理論を
借りながら論じた内容である。
現在の日本に最も欠けているのが、「真理」と共に、「気概」である。
現在の資本主義において欲望と理性(計算)は明確に意識化されているが、
「気概」は無意識化されている。
「気概」と「真理」が無いと、民主主義は形骸化してしまう。
この部分を掲載しなかったのは、民主主義の説明である「自由、平等、友愛、真理」
だけでも抽象的なのに、輪をかけて抽象的になってしまいわかりにくくなるという理由からだった。
しかし、民主主義を成り立たせているのは、人間の心理(魂)である。
その分析を踏まえることで、何故、人類が民主主義を支持する理由と、現在の民主主義の問題点を
理解しやすくなるだろう。
そのことについて論じた文章と図解を掲載する。
<図解資料>人間の魂の三要素「欲望、理性、気概」と民主主義について
https://www.dropbox.com/s/a0fhvvkilcqhr20/%E9%AD%82%E3%81%AE%E4%B8%89%E8%A6%81%E7%B4%A0.pdf
(以下、本に掲載しなかった箇所)
欧米で民主主義が確立されて以来、民主化の流れは世界的であり、
一度民主主義が根付いた地域では、それが無くなる事は殆どありえないのである。
これは誠に驚くべき事態である。普通選挙に基づく民主主義という政治体制は、民族のように自然に出来上がったものではなく、徹頭徹尾人工的に作られたものである。その人工物の象徴が憲法であり法律である。
この人工物である民主主義という政治体制が何故、世界中の人々の心を捉え、200年以上に渡って、人種も宗教も超えて拡大し続けているのだろうか?
人種も宗教も民族も超えたこの現象を読み解くには、人類という種族の本能を見なければならない。
そこから何故、民主主義という政治体制が圧倒的な正当性を勝ち得ているのかが導き出されるだろう。
民主主義が人類に普遍的な欲求を与える政治システムであるとフランシスフクヤマなどは考えた。
多くの先人達によって人間の生物的性質の分析はなされてきた。
一つは英米型的分類で、人間の持つ魂を「欲望」と「理性」の二つに分ける考え方である。
欲望は主に生存や幸福の追求であり、理性は、理知的・計算的な部分である。
例えば、お腹が空いたから食べ物が欲しいというのは欲望である。
そしてダイエットをしているので今回は食べないという欲望に逆らう行動が理性である。
もう一つはソクラテスからヘーゲルまで続く見方で、人間には欲望と理性と「気概」の三要素が
あるという見方がある。
三つになる理由は、欲望を生命保存としての「欲望」と、認知の欲望としての「気概」とに
分けるためである。
<歴史の終わり(上)P22
プラトンは、人間の魂には欲望、理性、そして彼のいうthymos(テューモス)すなわち「気概」
の三つの部分があると述べたのだ。>
<自分自身になんらかの価値をおき、その価値を認めさせようとする気質は、今日の一般的な
言葉でいえば「自尊心」とも呼べるだろう。
自尊心を覚えるという気質は、魂の「気概」の部分から生じる。
それは、人間に生まれながらに備わっている正義の感覚のようなものである。>
気概とは、自尊心とよぶべき類の物であり、生まれながらに持っている正義感や正当性、
認知への欲求である。
この認知の欲求は、他者に尊敬されたい、もしくは自らが満足を得られる行動をとりたいという
欲望だ。例えば「大震災時の危険なボランティア」のように通常の欲望とも理性にも分類されに
くい不合理とも言える行動は、気概からでるものである。
私もフクヤマやヘーゲルらが主張する魂の三分説の立場にたつ。
何故なら、人間という社会的生物を考える上で、「気概」という概念は必要不可欠なものであり、
欲望とは分けて考えたほうがよいものだからだ。
この人間の持つ魂の生物的要素に文明社会という新しい現象が加わった。
(以下、本のP105の11行目に続く)
数千年前のマネーの創造によってそれまでとは全く違った社会が出来た。
物と物の交換を可能にするマネーの出現によって多様な職業が生まれ社会は巨大化した。
文明の誕生である。
社会構造が発展してないマネーの無い社会は原始共産制であった。
マネーという物と交換する媒体が無いため、生産性や物の取捨選択が限られていた。
富の蓄積が殆ど不可能であったため、皆で物品を等しく分け合う社会であった。(平等原理)
その後、マネーが生まれることで、様々な物との交換が可能になり、取引の選択が
出来るようになった。
つまり選択の自由を人類は得たのである。また、富の蓄積が可能になった。
この時に社会的な自由が発生した。(社会的な自由原理の発生)
またマネーが無い社会では、極めて少数の部族単位の生活を人間は行っていた。(友愛の限定)
マネーの登場により発生した社会の発展と複雑化は、様々な団体や組織、集団を作り出した。
国家、宗教、企業、学校、家族、ファンクラブなど。(様々な種類の同胞愛の発生)
マネーによって社会が生まれると、人間がもつ魂の性質から発生する欲求の衝突が
起こるようになった。
マネーの誕生は、それまで原始共産制で平等であった人間社会に、
多様な自由を与えたために様々な軋轢を引き起こしていくことになる。
何故なら文明の成立により、持つ者と持たざる者の関係が生まれ、それまでの人類には無かった
複雑な主従関係が発生したためだ。
文明社会では普遍的な現象であり、奴隷制や封建制といった体制が世界中で作られた。
そのため平等を求める心(対等願望)と自由を求める心(優越願望)の対立が発生する。
優越願望は人よりも優れていたいという欲求であり、対等願望は他人と対等な者として
認められたいという欲求である。
二つとも社会が産み出した認知の欲求である。
フクヤマは人間の「社会的」な欲求を、「優越願望」と「対等願望」として捉え、
その確執が人間を動かす原動力であると分析した。
<歴史の終わり(上)P32
「優越願望」と「対等願望」は、認知への欲望の二つのあらわれであり、
近代への歴史の移行もこの両者とのからみで理解することができる>
そして優越願望と対等願望を最大多数の人に最大限与えることが出来る社会が
自由民主主義であるとした。
文明の誕生によって生まれた様々な集団における連帯願望の中で、優越願望と対等願望の対立が
起こり社会的、経済的な「矛盾」が発生する。
社会的な矛盾について
<歴史の終わり(上)より引用P230
「社会システム全体の崩壊を引き起こすに足る、根本的な社会不満の源」
「それが、社会システムの内部で解決できず、しかもそのシステム自体の正当性を掘り崩して瓦解に追い込むほど深刻なもの」>
社会的、経済的矛盾の源は様々な社会集団(奴隷主と奴隷、王侯貴族と農工商民、資本家と
労働者など)の連帯願望、の中で生じる優越願望と対等願望の対立にあり、その矛盾の拡大に
より歴代の様々な政治体制は、内部および外部からの圧力により崩壊してきたのである。
その矛盾を解消するために優越願望を主に「自由」の領域に、対等願望を主に「平等」の領域に、
連帯願望を主に「友愛」の領域に定義し、各理念がバランスする体制として民主主義が作られた。
そして民主主義の確立によって自己決定権を得た市民は、正しい価値判断を行う欲望、
つまり認識願望(真理)を社会的な欲求に拡大させる。
こうして民主主義を構成する自由・平等・友愛・真理が発生した。
アメリカ独立革命から発生した近代の民主主義システムは多くの人類の共感と正統性を
獲得しており、現在の世界で最強の政治体制になった。
歴史の終わり(下)より引用 P58
<【主従関係がはらむ内部的な「矛盾」は、主君の道徳性と奴隷の道徳性がうまく統合された
国家のなかで解決された。
主君と奴隷のあからさまな区別は消し去られ、かつての奴隷は新しい主君になった。
これが「1776年(アメリカ独立宣言)の精神」のもつ意味である。
つまりそこでは、再び新たな主君が勝利したのではなく、新たな奴隷の意識が生まれたものでも
なく、民主政体という形で人間の自己支配が達成されたのだ。】>
民主主義という政治形態が拡大し続ける理由は、人間の持つ優越願望、対等願望、連帯願望など
をどの政治体制よりも包括的に満たすことが出来るからなのだろう。
優越願望は主に自由の領域に含まれ、対等願望は主に平等の領域に含まれ、
連帯願望は主に友愛の領域に含まれる。
3つの願望としての社会的欲求を、社会も個人も含めた理念で表したものが自由・平等・友愛
である。
フランス人権宣言も世界人権宣言もこのような人間の社会的欲求を犯すべからずのものと
宣言したものだ。
人種も文化も宗教も超えて民主主義への移行が拡大している背景には当然ながら拡大を推し進める
勢力が存在する。
その主要なプレーヤーが市民と共に金融権力なのであるが、魅力的でなければ民主主義は
受け入れられない。
例え軍事的な侵略を伴う征服であっても、民主主義は多くの国で受け入れられているのを見ると
人間の社会的本能に適っているようだ。
(本からの転載終了 次回に続く)
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