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(本文)
江戸時代の苛烈なキリシタン迫害をテーマにした遠藤周作の有名小説「沈黙」が
米国人監督によって映画化され、その特集番組がBSで放送されていた。
映画の予告編はこちら↓
https://youtu.be/0cUtOR-DL1A
原作である小説は20年ほど前に読んだ。
世界中で他宗教の迫害を続けてきたキリスト教が、日本では被害者であった。
私はこの作品を権力による思想統制を描いたものとして見ている。
人類は様々な犠牲の結果として、このような悲劇をなくすために
言論の自由のある民主主義を作ってきた。
最近、江戸時代を美化する風潮が強いが、言論統制のきわめて厳しい
基本的人権のない社会であった。
この作品をそういう観点から見ることで、キリシタンではない自分には意味がでてくる。
一方、この小説では日本独自の問題を語った以下のような発言がある。
「この国は考えていたより、もっと恐ろしい沼地だった。
どんな苗もその沼地に植えられれば、根が腐りはじめる。
葉が黄ばみ枯れていく。我々はこの沼地に基督教という苗を植えてしまった」
この発言は小説「沈黙」で棄教した神父であるフェレイラに語らせた言葉である。
どの宗教もその土地になじむためには、その土地の風俗や民族性に根差した
土着化はおこるものだ。
しかし日本の場合は、その土着化が、その宗教の本質を骨抜きに
してしまう類のものなのだ。
日本の仏教を見れば、僧侶の妻帯、肉食、酒飲み、子作り、寺の世襲と
世界の仏教からみたらありえない破戒集団を形成している。
世界の仏教僧が拒否するものを全てOKとしているのが日本仏教である。
このような恐るべき破戒が起きたのは、日本人の戒律嫌いが原因だ。
戒律とは、、何々しろ、何々するな、という宗教の決まりごとである。
日本でイスラム教が全く広まらないのは、戒律嫌いである日本人と
厳格な戒律を持つイスラムの相性が悪いためという説があるが、それは正しいだろう。
戒律は宗教の本質をなすのだが、日本は、ことごとくその本質を無くしてしまう。
これは宗教のみに限らず、民主政治などでも同じである。
選挙と議会に基づく民主政治は、政治権力の世襲制を否定するために
作られたにも関わらず、もはや国会議員も含め政治家は2世議員、3世議員ばかり。
また憲法も形骸化しており、本質が抜き取られ形だけのものになっているのだ。
今の日本は民主主義という思想なき、議会と選挙に基づく民主政治になっている。
ここに日本独特の特徴があると思われる。
日本では戒律ではなく、「その場の空気」が宗教なのである。
空気によって何が良くて、悪いかの物事が決定されていく。
そのため、「空気を読め」という言葉が生まれる。
空気を重視する風潮には長所と短所がある。
長所は周りとの調和を重んじることである。
そのため、他者との摩擦が起こりにくく、治安や社会の秩序が保たれやすい。
短所は、空気によって決まるために、周りに流されることで
物事の本質を軽視してしまう事である。
このような日本に民主主義を根付かせるには、「空気の長所」を取り込みながら、
「空気の短所」を打破するための思想が必要になるだろう。
その思想は戒律がきわめて少なくシンプルであり、また選挙や議会制という民主政治と
融合したものにならなければならない。
つまり寛容を美徳とした価値(自由、平等、友愛)に基づいて
その価値の本質の意識化(価値に基づく真理)を結合させながら
民主政治の諸制度と融合した民主の原理である。