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(本文)
反ジャーナリストで作家の高橋清隆氏から、
拙著『洗脳政治学原論』の書評をいただいた。
高橋氏が反ジャーナリストを名乗るのは、
今回の本のタイトルにもあるように市民を
洗脳する役割を担っているためだ。
マスゴミによる大衆洗脳という魔術について
調べてきた高橋氏の文章は、社会問題に切り込む
一つの論文のようである。
素晴らしい書評をいただき、ありがとうございました!
(ブログ高橋清隆の文書館より以下転載)
【書評】『世界を騙し続けた[洗脳]政治学原論』天野統康(ヒカルランド)
下巻に当たる。
副題に「政〈金〉一致型民主社会へのパラダイムシフト」と付された通り、民主政治が
国際銀行権力によって操作されてきた仕組みの謎を解き明かす。
3つの章で構成され、最初に現代政治システムを分析し、30年間の日本経済の没落の
仕掛けを解明した後、欧米型自由民主制社会の超克術を提言している。
天野氏は民主主義を人類史の中で最高の政治制度として肯定している。
欲望と理性、気概が精神の三要素だが、これらは対立し、社会的矛盾の原因にもなる。
これらを調和させるため、真理と自由、平等、友愛の4つの権利を基に導入されたのが
普通選挙法だと説明する。
しかし、現実には格差と対立が絶えないのが世の中である。
その理由は国際銀行権力が民衆に目隠しし、騙(だま)してきたから。
著者によれば、民主主義には目的がある。
それは「誰もが支配されない、自由で平等な社会」の実現で、権力は目的を
無意識化させることで民主の4原理すなわち真理、自由、平等、友愛を分裂させて
きたと指摘する。
日本経済の没落もその一現象にほかならない。
マスコミ的には日本社会が制度疲労を起こしたからとか、「A層」でも財政出動が
足りなかったからという意見が主流を占める。
しかし天野氏は、上巻で述べた「信用創造」の量が決定的に左右したと分析する。
天野氏は、1980年代までのわが国の経済モデルを「産業資本主義」と表現する。
その諸制度は戦時体制を温存したもので、日銀の国有化や銀行の統合、窓口指導
などが主要素を成す。
窓口指導では、どの業種にどれだけ貸し出すかを日銀が統括した。
企業形態も米国と異なり、メインバンクと系列企業による株の持ち合いや、
経営者権限の保護、従業員の手厚い福祉制度と企業別組合があった。
窓口指導と合わせて「護送船団方式」とやゆされたが、この独自の仕組みが
世界一の成長率を支えたのである。
日本型資本主義と決別を告げる原因になったのは、バブルとその崩壊である。
一般には85年のプラザ合意による急激な円高ドル安政策と空前の超低金利政策の
導入の結果とされるが、天野氏は窓口指導による貸出額の増減に原因を求める。
この時期、不動産融資をはじめとした投機関係の融資は貸出総額の27%にも達した。
額で言えば98兆9000億円で、名目国内総生産の25%。不動産価格は千代田区の
市場価値だけでカナダ全土を上回った。
それを1989年6月、窓口指導で急激な引き締めを行ったのである。
これに乗じる形で「日本の経済システムそのものが悪いからだ」と宣伝し、『前川レポート』
に沿い日銀を独立させた。
国際会計基準を導入し、優良企業を二束三文でハゲタカに譲り渡し、『年次改革要望書』に
従って構造改革を進めた。
その結果、上場企業の外資比率は31%に拡大し、非正規雇用は37.5%を超える。
今の子供の夢は「正社員になること」である。
しかし、天野氏は言う。
「この問題の根の深さは、巨大な国際銀行権力によって誘導されたとはいえ、
民主主義の中で国民が自己決定してきたことだ」。
著者の提示する処方箋は、市民が民主的価値を体現することである。
支配者が無意識化させてきた自由民主制の基本原理を意識化し、市民として実践して
いけるかどうかが試されていると主張する。
併せて制度変更も必要で、憲法に政府通貨の発行を明記させ、それを実行させること
であると説く。
政府通貨にすることで、市民は銀行権力による目隠しから覚醒し、借金地獄からも解放される。
財政赤字を口実にした消費増税もなくなり、銀行の経営状態や財テクによる景気変動から
解放されると強調する。
全編を通じてうならされるのが、引用文献の多さである。
リチャード・ヴェルナーやフランシス・フクヤマはもとより、マルクスやヘーゲル、プラトンや
般若心経まで及ぶ。
プラトンは「気概」の重要性を見いだす箇所で登場し、欲望と理性だけでは資本主義的な
欲得に支配され、臆病で打算的な人間になると警告する。般若心経を出したのは、
さまざまな条件付けから解放された一人の人間の確立に向け、東洋思想と西洋思想の
長所を融合する必要性を訴えるため。
それにより、真の人類共同体の構築が可能となる。
われわれの目の前の出来事について、考えさせるくだりも多い。
自民党憲法改革案への批判もその1つ。
同案は「公共の秩序」を根本規範とし、これに反する諸権利を認めない。
人権は国家が与えるものとし、現憲法が保障する表現の自由(21条)や選挙権の平等(44条)、
選挙権(15条)、教育を受ける権利(26条)や学問の自由(23条)を侵害し、自由・平等・友愛・
真理の4権利を損なうからである。
にわかにマスコミをにぎわすヘイトスピチーチにも触れている。
私見では、正(問題)・反(反応)・合(解決)手法による言論封殺策動と確信するが、
著者は連帯願望すなわち所属集団への友愛の操作による分裂・対立宣伝工作で
あると告発する。
少数派による多数派支配の構図への糾弾も実は同じとの指摘は慧眼(けいがん)である。
民衆が物事の善悪の価値判断をマスコミに委ねている実態を「マスコミ真理教」と表現し、
福島原発事故で東電幹部が何ら責任を取ってない状況を例に挙げている。
私はマスコミ報道を全て宣伝だと連呼してきたが、それでも影響を受けている可能性を
省察させられた。
進化論や地球温暖化だけでなく、地球が丸く、GDP拡大を是と考える時点で、十分
洗脳されているのかもしれない。
マスコミにさらされる「悪者」を糾弾することが暗黒社会を引き寄せているとの指摘は全く同感だ。
児童ポルノやセクハラ、個人情報保護などの宣伝に踊らされた結果、狙った人を誰でも逮捕で
きる社会になりつつある。
「基本的人権と民主主義を掲げる社会において恐怖政治が実現」するさまを
「まるでジョークのような話」と皮肉る。
同書は最後、民主制の行方に希望を提示する。
「正しい思想を持ち実践する個人が増えれば、正しい現状認識が生まれ、正しい方向性と
手段の用い方が導かれる。そして、人間解放のために経済を管理する社会が実現する。
そうなればマネーは利己的な欲望や支配のための道具ではなく、人々が健康で文化的な
生活を営むために活用される素晴らしい道具になるだろう」
民主主義の下で本来得られるはずの幸福を享受したい人は、同書を洗脳を解く手掛かり
にしていただきたい。
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(転載終了)
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