主張
TPPの国会審議
日本だけがなぜ突っ走るのか
関税を原則撤廃し、多国籍企業に有利な仕組みを国民に押し付ける環太平洋連携協定(TPP)を承認する案件とその関連法案を審議する衆院の特別委員会の設置が日本共産党などの反対を押し切って決まり、4月5日からの審議入りを狙っています。日本やアメリカなど12カ国が参加するTPPは、農産物や工業製品の貿易だけでなく、投資やサービスの取引、雇用や医療などあらゆる分野にわたるもので、文字通り国のあり方にかかわります。国民には中身も十分知らされていません。各国での批准の見通しも立っておらず、日本だけが突っ走るのは異常です。
国民には全体知らされず
TPPをめぐる交渉は、安倍晋三首相が2012年に政権に復帰した後、アメリカの強い要求で参加したもので、昨年秋に「大筋合意」するまでは、交渉の中身が一切明らかにされない、全くの秘密交渉でした。安倍政権は、国会が交渉対象からはずすよう求めたコメや牛肉・豚肉など重要品目は守ると約束しましたが、結果は、農林水産物で81%、重要5項目だけでも約3割の関税が撤廃されています。関税を維持した品目も、7年後の見直しが盛り込まれています。国会決議に違反した協定を国会に持ち出し、批准を強行しようとすること自体、言語道断です。
協定には「食の安全」が脅かされることへの不安や企業が国を訴えることができる「ISDS」条項などへの懸念も指摘されています。不安や懸念を踏みにじって、批准を急ぐのは許されません。
TPPにはことし2月、参加各国の代表が署名しましたが、国民に対しては中身が小出しにされるだけで、政府は英語の正文で約8400ページの協定の3分の1近くしか日本語の翻訳を公表していません。国民が協定の全体を知り、検討できる状況にはありません。国会で承認を求めるなら交渉の経過を含め全体像を明らかにし、日本経済と国民の暮らしにどんな影響があるのかも明らかにすることが不可欠です。政府が昨年末公表した、農業への影響を過小評価し、国内総生産(GDP)や雇用への影響を過大評価した試算ではあまりに恣意(しい)的であり不十分です。
だいたい、膨大な協定と11本の法案を一括した関連法案を突然国会に提出し、国会にはそれぞれ担当の委員会もあるのに特別委を設置して、何が何でも協定の承認と一括法の成立を求めること自体、国会審議を軽視するものです。多くの法案を一括法として提出するのは安倍政権が「戦争法」でも見せた手口ですが、一つ一つの審議をないがしろにして成立を急いでいるとの批判は免れません。
アメリカなど批准は遅れ
TPPはGDPで参加国の85%以上を占める、少なくとも6カ国以上が批准しなければ発効しません。日本とともにアメリカの批准が必要です。ところがアメリカでは11月に大統領選があるため批准が大幅に遅れるといわれるうえ、次期大統領候補はほとんどがTPPに批判的です。カナダ政府も批准は急がないといわれます。日本が批准を急ぐ道理はありません。
安倍政権は「早期発効の機運を高めたい」としていますが、見通しもなく突き進むのは危険です。安倍政権にTPPのすべての情報を明らかにさせ、国会は徹底審議で廃案にすることが求められます。
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