安倍晋三首相の憲法改悪に向けた前のめりの姿勢が加速し続けています。

世界中で協力

 年頭会見(4日)、10日のNHK番組での発言に続き、補正予算審議でも「来るべき選挙でも政権構想の中で憲法改正を示す」(12日)と踏み込み、21日の参院決算委員会では、「どの条項を改正すべきかという現実的な段階に移ってきた」と答弁。22日の施政方針演説でも「逃げることなく答えを出していく」と言い放ちました。国務大臣の憲法尊重擁護の義務(憲法99条)を全く無視しています。

 戦争法強行でアメリカの戦争に世界中で協力する体制整備に乗り出し、憲法9条との矛盾が極限に達する中、憲法の条文そのものを変える明文改憲の姿勢を強めているのです。

 自民党の稲田朋美政調会長もBS番組の収録で、9条2項を明示して「立憲主義という点からも空洞化している。変えるべきだ」と発言(22日)。戦争法で自ら立憲主義を破壊しつつ、「空洞化」を強調して明文改憲へと突き進もうとしています。

 自民党関係者の1人は「首相は『1票の格差』是正の衆院選挙制度改革を急げと党の尻をたたいている。(衆院選と参院選の)ダブル選の環境整備の一つだが、ダブルで勝てれば改憲に踏み出す」と指摘します。

緊急事態条項

 明文改憲のテーマとして繰り返し言及されるのが「緊急事態条項」。自民党改憲草案では、有事に内閣が「法律と同一の効力を持つ政令を制定」できるとし、国民の服従義務も定めるなど、人権保障をはじめとする憲法の制限を突破する仕組みづくりです。

 この「緊急事態条項」創設を強力に後押ししているのが、改憲右翼団体の「日本会議」です。

 15年4月、新会長に就任した田久保忠衛氏(杏林大学名誉教授)は「日本会議」の機関誌『日本の息吹』同年7月号のインタビューで、戦争法強行に突き進む安倍首相を「天が下し給うたリーダー」と礼賛。「安倍総理のうちになんとしても憲法改正を」「皆さんと共にこの決戦に臨んでいきたい」として、天皇の元首化、憲法9条改定に加え、「外国からの攻撃、大震災、内乱、テロ、サイバー攻撃など緊急事態に際して、一時的に内閣総理大臣に権力を集中する」の「3点の憲法改正を急がねばならない」と迫っています。

“草の根”策動強める

 『日本の息吹』の最新号(2月号)は、浜谷英博・三重中京大名誉教授の「憲法改正――国家緊急事態条項の創設を急げ」という一文を掲載しています。

大震災を口実

 東日本大震災で「災害緊急事態の布告が見送られた最大の理由は、一部の国民の権利を制限してでも被災地域の緊急支援を実施しようとする強い意思を、政権自体が自信を持って示せなかった」ことだとし、「その背景には憲法における緊急事態条項の欠落がある」と強調。「国家緊急事態条項の創設に向けた審議の促進と憲法改正の実現は焦眉の急である」と主張しています。

 その浜谷氏もまた、日本会議の椛島有三事務総長らとともに改憲勢力が立ち上げた「民間憲法臨調」の運営委員を務めてきた人物です。

 一方、安倍首相も稲田氏も、「日本会議」と一体の「日本会議国会議員懇談会」の役員を歴任してきました。

 改憲団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が昨年11月10日、日本武道館で「今こそ憲法改正を! 1万人大会」を開き、安倍首相も同大会に寄せたビデオメッセージで「自民党憲法改正草案」を売り込み、「憲法改正に向けともに着実に歩みを進めてまいりましょう」と述べました。

 共同代表の一人、桜井よしこ氏は大会でのあいさつで、「大規模な自然災害に対しても、緊急事態条項さえない現行憲法では、国民の命を守り通すことは困難です」と強調しました。安倍首相は、その翌日(11月11日)の国会閉会中審査で「緊急事態条項」創設に意欲を示しました。

 同会の共同代表には「日本会議」の田久保会長が就任。さらに「日本会議」前会長の三好達氏も共同代表に名を連ね、事務局長には「日本会議」の椛島事務総長が就任するなど「日本会議」と一心同体の、改憲推進の草の根団体です。

署名運動展開

 さらに同会は、1000万人の賛同者拡大を目標に、9条改憲などの賛同署名運動を全国的に展開しています。同会のつくった署名用紙では、▽天皇元首化▽9条2項に自衛隊の規定を設ける▽「家族」条項の新設▽緊急事態対処規定の新設▽96条の改憲要件緩和▽前文に伝統・文化を盛り込む―などとしています。自民党改憲草案とほぼ重なる内容です。各地の神社内で初詣の参拝客を対象にした署名集めも行っています。

 また、署名用紙には「国民投票の際、賛成投票へのご賛同の呼びかけをさせていただくことがあります」と記載。今後、国会が改憲発議した後に行われる国民投票時の「働きかけ」名簿として使われる可能性もあります。署名用紙には電話番号の記入欄がつけられています。

 日本会議系の改憲シンポジウムなどでは、この間、憲法守れの「九条の会」の活動の広がりへの「対抗」がたびたび強調されてきました。

 安倍政権と「日本会議」が共同しつつ、明文改憲の“草の根”策動を強めています。それを上回る批判と反撃を広げることが必要です。

【改憲めぐる発言】

 安倍晋三首相

 ■「(改憲については)参議院選挙でしっかりと訴えていく」「そうした訴えを通じて国民的な議論を深めていきたい」(4日、年頭記者会見)

 ■「緊急時に国家、国民がどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置づけるかは極めて重く、大切な課題だ」(11日、参院予算委員会)

 ■「(改憲は)正々堂々と議論し、逃げることなく答えを出していく」(22日、施政方針演説)

 自民・稲田朋美政調会長

 ■「(憲法で9条2項が)一番空洞化している条項」「9条2項は変えるべきだ」「(緊急事態条項については)いかなる場合に人権を制限できるかしっかり議論しなければいけない」(22日のBS朝日番組の収録で)