主張
権利条約の報告案
障害者の実態の反映こそ必要
障害者権利条約にもとづいて日本政府が国連の障害者権利委員会に今春にも提出を求められている、「政府報告」の作成が進められています。しかし、政府が昨年秋に公表した報告案には、日本の障害者の生活実態の変化や問題点がほとんど盛り込まれていないため、障害者団体などから改善や補充を求める声が相次いでいます。
課題や問題は詳述せず
2006年に採択された国連の障害者権利条約は、どんなに重い障害があっても、障害のない市民と同様に地域で暮らし、学び、働き、スポーツ・旅行・趣味を楽しみ、情報のやりとりをする権利の保障などを掲げています。日本は07年に同条約に署名したのち、14年1月に批准し、同年2月から国内での効力が発生しました。
締約国は、障害者の権利実現に必要な措置を取ることが義務付けられています。国内での効力発生後2年以内(今年2月)に1回目の政府報告(締約国報告)を国連に提出することも求められます。
報告する内容として国連が締約国に求めていることは、障害者の権利確保のためにどんな法整備をしたか、それによる障害者の生活の変化、障害のない市民との格差の縮小の度合いなどです。ところが外務省が昨年9月に公表した政府報告案は、法整備などについては詳しく述べているものの、障害者の生活実態の変化についてはほとんど触れていません。
例えば、権利条約第8条「意識の向上」の関連では、いくつかの法律が国民の障害者への理解向上に努める趣旨の規定をしていることや政府の啓発活動などについては紹介しています。ところが政府は国民の意識調査や国際比較を行ったデータを持っているのに、その記載がないため、障害者への国民の理解の状況は分かりません。
報告案には、スポーツやレクリエーションで障害者の参加が成人一般より低いことを示す指摘などはありますが、全体としては権利条約の掲げる障害者の権利が日本でどの程度実現しているのか実態が明らかにされていません。障害者団体からは「日本がまるで権利条約の求める社会になっていると言わんばかりだ」との批判が出ています。
このような報告が提出されても、国連の障害者権利委員会は、日本に対して適切な評価や勧告はできません。
政府が詳述する法整備の描き方も問題があります。障害者の権利を脅かす障害者自立支援法に代わる新法として障害者総合支援法が制定されましたが、同法は「応益負担」の仕組みを残すなど障害者の願いにこたえたものではありません。支援を必要とする人が支援を得られない「制度の谷間」の問題も法整備の重大な欠陥です。法整備で権利確保ができているかのように強調するのは、深刻な現実を伝える姿勢ではありません。
当事者の関与と参加で
障害者権利条約第30条は、条約の実効・監視に障害者団体などの関与と参加を求めています。報告に障害者の意見を反映させることが不可欠です。政府報告とは別に民間報告を国連に提出する障害者団体の動きもすすんでいます。
障害者が人としての尊厳を尊重され社会生活のあらゆる場面で権利が保障される社会の実現へ向け、国民が力を合わせ、政府を動かすことが重要になっています。