主張
オバマ氏一般教書
世界の警察官でないというが
オバマ米大統領は、12日に行った任期最後の一般教書演説で、「世界の警察官になることなしに、いかに米国を安全にし、世界をリードするか」が、次期大統領が回答を迫られる課題だと述べました。
オバマ氏は、中東の激動、中国経済の台頭、ロシアの最近の動きなどを念頭に「第2次世界大戦後の国際システム」改革の必要性にも触れました。軍事力と軍事同盟による牽制(けんせい)と介入の政策のみでは、世界への影響力の維持がもはや難しくなっていることの反映です。
懸念される空爆の継続
米政権の動向には、ブッシュ前政権の後期以降、軍事的覇権主義への根深い固執とともに、外交交渉での国際問題の解決を重視するという「二つの側面」が色濃く出ています。オバマ氏が、この日、軍事介入の泥沼に引き込まれることへの自戒を「ベトナム(戦争)、イラク(戦争)の教訓」と述べたことは注目されました。
問題は、その「教訓」を真剣に生かす努力をしているのかどうかです。オバマ氏は、世界最大の軍事力・軍事費を誇示し、「必要なら単独で行動する」と言明する一方、「世界的問題で他国が重荷を分担するようにする」政策の方が「賢明なやり方だ」と述べました。
これが、国際的な外交努力に諸国の協力を求めるのではなく、同盟国に一層の軍事的負担を求めることであるなら、力を背景とした覇権主義への固執にすぎません。
懸念されるのは、1万回にも上るイラク、シリアでの過激組織ISへの空爆作戦の“成果”を強調し、継続する意志を改めて表明したことです。戦争でテロを根絶できないことは、米政府も含め、国際社会の共有認識であり、オバマ氏も同日、IS掃討後も、中東や他の地域でテロリストの新たな拠点が発生するなど、不安定は続くとの見通しを示しています。米国の侵略と占領が引き起こしたイラクの混乱がIS台頭の温床となっただけに、米国には、テロと戦争の悪循環を深めるのではなく、安定化に向けた特別の責任があるはずです。
しかし、オバマ氏はこれまで、一度はイラクから米軍を完全撤退させたものの、再び軍事顧問団や特殊部隊の派遣を拡大し、最終的に3000人規模の駐留となる見通しです。北アフリカ地域で、特殊作戦のための秘密拠点を拡大しているとも報道されています。
一方で、オバマ氏は、外交での問題解決と国際協力の必要性も強調しました。核開発問題をめぐるイランとの合意、キューバとの国交正常化の推進、気候変動問題でのパリ合意、国際協力によるエボラ熱対処などを成果として挙げました。ここには、国内外の世論をふまえ、世界と地域の平和や安定に向けて米国が果たせる前向きな役割の大きさがみてとれます。
力による覇権維持でなく
ただ、オバマ氏は同日も環太平洋連携協定(TPP)について、「アジアでの米国の指導力を高めるものだ」「中国がルールを書くのではなく、われわれが書く」と強調しています。他国の経済主権の尊重より、中国を念頭に置いた“主導権争い”の意識をうかがわせます。
「世界の警察官」ではないという米国が、どんな国際協力を展望するのか。それは、力による覇権維持を、何よりも上に置くことではないはずです。