主張
文化の日
憲法に立脚した原点見つめて
「文化の日」の11月3日は、1946年に日本国憲法が公布された日です。48年に制定された祝日法は、第2条で、この日を「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日と定めています。
国際社会の理念とも合致
「この新憲法において、世界のいかなる国もいまだかつて言われなかったところの戦争放棄という重大な宣言をいたしております。これは日本国民にとって忘れがたい日でありますとともに、国際的にも文化的意義をもつ重要な日でございます」
祝日法を審議した48年7月4日の参院本会議では文化の日の趣旨が、こう報告されました。報告者は山本勇造・参院文化委員長(作家の山本有三)でした。この報告のとおり文化の日は、戦争放棄を明記した日本国憲法の制定と不可分のものでした。
安倍晋三政権が戦争法を強行した今ほど、この原点を見つめることが求められている時はありません。同時に「自由と平和を愛し、文化をすすめる」立場にたって、わが国は国際的にもその精神を発揮することが求められます。
くしくも日本国憲法公布の翌日の46年11月4日、国際社会では、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が創設されました。ユネスコ憲章(45年11月16日採択)は、前文冒頭で「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と宣言しています。文化の日の理念とも重なるものです。
72年のユネスコ総会が採択した世界遺産条約も、この精神にたって制定されました。
ところが最近、世界遺産や世界記憶遺産への登録が、日本と近隣諸国との政治的対立の火種になっているのは、ユネスコの精神にてらして憂慮すべきことです。
今年7月、世界遺産への「明治日本の産業革命遺産」の登録の過程では、戦時下の朝鮮半島出身の労働者の動員をめぐって、日韓両国が対立しました。その後、世界遺産委員会で日本政府代表が「自らの意思に反して連れてこられ、厳しい環境で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」とのべ、「犠牲者を記憶にとどめる措置をとる」と表明し、合意が得られました。日本政府は今後、この公約を誠実に履行することが求められます。
10月、世界記憶遺産に日本政府が申請したシベリア抑留者の引き揚げ記録「舞鶴への生還」と、国宝「東寺百合文書」の登録が決まったのは喜ばしいことでした。
他方、中国政府が申請した「南京大虐殺の記録」の登録決定にたいして、菅義偉官房長官がユネスコへの拠出金停止・削減の検討を表明したのは恥ずべきことです。
1937年の南京事件については、犠牲者数などをめぐって論争があります。しかし、多くの市民の虐殺があったことは動かしがたい歴史的事実です。日本政府が、自らの主張がいれられなかったからといってユネスコへの拠出金停止などの措置をとるというのは、国際社会の理解は得られません。政府は侵略戦争への反省を明確にし、理性的に対応すべきです。
平和の原点にたってこそ
平和なくして文化の発展はありえません。文化の日制定の原点にたち、日本政府は、憲法の精神にもとづくアジアとの平和・友好の前進に努めることが必要です。
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