無法ぶりが際立つ
29日午前8時すぎ、「本体工事着工」を知らせるファクスが、防衛省沖縄防衛局から一斉に報道機関に送信されました。沖縄県の翁長雄志知事が13日に辺野古埋め立て承認を取り消してから、わずか16日後の暴挙です。知事は22日、約950ページ、付属資料を加えると数千ページもの意見書を送付しましたが、国交相はわずか5日後の27日に、埋め立て承認取り消しの効力停止を決定。防衛局は翌28日、辺野古の「公有水面埋め立て」に着手するとのわずか1枚の届出書を県に一方的に送付したのです。
翁長知事が「結論ありきだ」「県民の気持ちに寄り添うという気持ちがみじんも感じられない」と厳しく批判したのは当然です。
しかも、政府の一連の動きは民意無視の横暴ぶりにとどまらず、既存の法理や、自らの言明にも反した無法ぶりが際立ちます。
まず、沖縄防衛局は知事の取り消し処分に対して、行政不服審査法に基づいて審査請求・執行停止を申し立てましたが、同法は一般国民の権利利益を擁護するためのもの。防衛局は自らを「私人」と名乗り、同法を悪用したのです。しかも、申し立ての可否を判断するのは国土交通相。国が国を救済する「一人芝居」です。
さらに、国交相は知事の権限を奪う「代執行」手続きに着手しました。これは、辺野古新基地建設に関して「代執行はやらない」とした2013年4月の安倍内閣の閣議決定にも反します。
加えて、安倍政権は仲井真弘多前知事との間で、埋め立て承認の「留意事項」として、本体工事着工前に国・県の「事前協議」を確認していましたが、これを一方的に破棄したのです。
「着工」の事実演出
本体工事「着工」から間もなく、菅義偉官房長官は米領グアムへ出発しました。菅氏は29、30両日の日程で、州知事や米軍高官らと相次いで会談。グアムへの在沖縄海兵隊移転と同時に、辺野古新基地建設を迅速に進める考えを相次いで表明しました。民主党のボルダーロ下院議員は自身のホームページで、菅氏との会談で「普天間代替施設(辺野古新基地)の進展の重要性について議論した」と述べています。
実際は、沖縄県民や県・名護市の不屈の抵抗で、新基地建設の作業は「進展」していません。29日に「本体工事」と称して開始したのは、あくまで陸上部分の周辺工事です。真の本体工事=辺野古海域の埋め立てには、多くのハードルがあります。防衛局が通告した「20年10月」までの工事完了には何の現実味もなく、岩礁破砕許可の取り消しや、埋め立て承認申請変更の不承認など、県や名護市が権限を行使し続ければ、工事はいくらでも阻止できます。
常軌を逸した安倍政権の根底には、異常なまでの対米従属と、それゆえに対米公約を果たせないことへの焦りがあります。米国への体面を保つため、「着工」という既成事実を演出したにすぎないのです。
成り立たぬ言い訳
政府は、県への一連の通告文で、辺野古埋め立ての必要性として(1)普天間基地の危険性除去(2)米国との信頼関係を損ねる―の2点を挙げます。しかし、これらはいずれも成り立たない言い訳です。まず、13年4月の日米合意(在沖縄基地統合計画)によれば、辺野古新基地の完成・普天間基地の返還は「22年度またはその後」となっています。工程は大きく遅れており、「返還」時期の見通しはありません。
一方、仲井真前知事が埋め立て承認をした際、普天間基地の「5年以内の運用停止」を条件にあげました。菅長官はこれに関して、「政府として14年2月を起点にしたい」(昨年9月17日)と発言。政府の立場としては「19年2月までの運用停止」が、普天間基地の危険性除去の最短ルートのはずです。ところが、政府は「5年以内の運用停止」を一度も米側と交渉していません。
米国が一貫して辺野古新基地を要求しているのは事実です。他方、現行計画を合意した際のラムズフェルド国防長官は「望まれない場所に基地は置かない」と明言しています。
米国は戦後、全世界に基地網を構築しましたが、現在は縮小の一途をたどっています。
米国防総省の「基地構造報告」15年度版によれば、海外基地の件数は513で、1990年代以降では半減しています。それでも米国は、基地を減らした同盟国との友好関係を維持しています。
「米軍=抑止力」という固定観念にとらわれ、思考停止状態に陥っている安倍政権の卑屈ぶりは、国際的にみても異常です。
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