主張
診療報酬の改定
医療の安心・安全を脅かすな
公的医療保険で受ける医療サービスの価格である診療報酬の2016年度改定に向けた議論が本格的に始まりました。安倍晋三政権の社会保障費削減路線のもとで、財務省や財界などは、診療報酬総額の大幅な「マイナス改定」を要求しています。外来、入院、検査、手術、投薬などさまざまな医療行為の財源となる診療報酬の改定結果は、国民が受ける医療水準に直結する問題です。安心・安全の医療を国民に安定して提供できるようにするためには、医療の質を損なう「マイナス改定」ではなく抜本的な増額こそが求められます。
現場をさらに疲弊させる
診療報酬改定は原則2年に1度行われ、診療報酬総額の改定率は、予算編成作業のなかで内閣が12月中に決定します。医療機関などに支払われる、診療行為や薬ごとの具体的な報酬額(患者は1~3割の窓口負担)については、厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を経て、来年2月ごろ決められる予定です。
自民・公明両党が推進した「構造改革」路線のもとで行われた02~08年度の改定は、大幅引き下げが毎回強行され、多くの医療機関は経営危機にさらされました。それによって、国民に必要な医療が十分提供されない「医療崩壊」などの事態が引き起こされました。
その後の改定も大幅マイナスではないものの、医療危機を打開する増額は行われていません。むしろ医療費削減路線のもと、地域に密着した中小医療機関の経営が困難になるような改定や、患者を「入院から在宅へ」強引に誘導する改定などが繰り返されました。
安倍首相の政権復帰後初の診療報酬改定となった前回14年度は、財界や財務省から「医療費大幅抑制」要求が強まり、実質マイナスとなりました。その結果、看護師配置が他の病床より手厚い「患者7人に看護職員1人」病床の削減を促進することや、「同じ建物」に住む複数の患者を「同じ日」に診察すると医療機関の報酬が減額されることなどが盛り込まれ、患者・家族にも医療従事者にも大きな苦難をもたらしています。
安倍政権は、この深刻な実態をますます悪化させようとしています。16年度予算で社会保障費の伸びを、概算要求段階からさらに1700億円程度削減することを掲げ、削減分の大部分を診療報酬のマイナス改定によって、ねん出することを露骨に狙っています。
財務省は「全体としてマイナスとする必要がある」「サービス単価の大幅抑制」などとさかんに強調し、厚労省も今月示した診療報酬改定の基本方針案のなかで、「患者7人に看護職員1人」の病床の削減を加速させることなどを打ち出しています。「手厚い看護体制」づくりに完全に逆行する改悪は、医療現場をいっそう疲弊させ、患者・家族の安全を脅かすものでしかありません。
暮らし最優先の政治こそ
医療を立て直すには、診療報酬の増額がどうしても必要です。患者負担に跳ね返らないよう窓口負担軽減なども求められます。
財政が大変だといって社会保障費を削り込む一方で、軍事費は増額し大企業向けの法人税減税は気前よく実行する安倍政権のやり方には、なんの道理もありません。国民の健康と命、暮らしを最優先にする政治の実現が急務です。