主張
マイナンバー通知
不利益しかない制度動かすな
赤ちゃんからお年寄りまで日本に住む人に一人残らず12桁の番号を割り振って国が管理する「マイナンバー(社会保障・税番号)」制度の番号通知が今月から始まります。利用開始は来年1月ですが、多くの国民は仕組みを詳しく知っている状況ではありません。準備・対応を迫られる地方自治体や企業からは、新たな出費や業務負担の増大などに悲鳴が上がっています。国民が望んでもいない番号を“これがあなたの一生変わらない番号です”と一方的に送りつけようという安倍晋三政権のやり方は、あまりに乱暴で危険です。
“安全神話”は成り立たず
マイナンバーを知らせる通知カードは、5日時点で住民票登録をしている住所に市区町村から世帯全員分まとめて簡易書留で今月中旬以降送られてきます。国内約5600万世帯のほぼすべてに書留を送ったことは、日本の郵便史上例がありません。留守にしていた人からの再配達要請の殺到や夜間休日の郵便窓口の大混雑など、多くの混乱が心配されています。
東日本大震災の避難者、家庭内暴力(DV)で住民票を移さず転居中の人、特別養護老人ホーム入所者などで住所変更手続きをしていない人の手元にはそもそも通知カードは届きません。「大切に扱う」ことが必要な番号を知ることすらできない人が、制度スタート段階で100万人以上見込まれること自体、仕組みの矛盾とほころびを浮き彫りにするものです。
初期費用だけで約3000億円も投じ、国民にも自治体・企業にも多大な負担と労力を求めるマイナンバー制度ですが、国民には政府が宣伝するような「メリット」はありません。マイナンバーによって、現在は各機関で管理されている年金、税金、住民票などの個人情報が容易にひとつに結び付けられることになります。それで年金申請や転居のときの行政手続きが簡単になると政府は売り込みます。しかし、そんな手続きは日常生活では頻繁にありません。
むしろ個人情報を簡単に引き出せるマイナンバーを、他人に見られないようにしたり紛失しないようにしたりする手間が大変です。個人情報は分散して管理をした方がリスクは低くなるのに、マイナンバーのように「一元化」するやり方は、個人情報を格段に危険にさらす逆行でしかありません。
しかも政府・与党は、マイナンバーを銀行口座や健康診断などの情報にも結びつける方針です。健康保険証や図書館の貸し出しに使う案まで検討しています。消費税増税時の「還付金」手続きに使う案まで持ち出し国民を驚かせました。制度が始まる前から、利用範囲を野放図に広げる意向が官民から続出していることは、「利用対象を限っているから安全」という政府の“安全神話”がまったく成り立たないことを示しています。
運用の中止こそが必要
マイナンバーは国民の願いから生まれたのではありません。国民の所得・資産を厳格につかみ徴税・社会保険料徴収の強化などを効率よく実施・管理したい政府と、マイナンバーをビジネスチャンスにしたい大企業の長年の要求から出発したものです。こんな狙いの制度で国民のプライバシーが侵害されていいはずがありません。来年1月の本格運用に突き進むのでなく、凍結・中止こそが必要です。
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