主張
新国立迷走の責任
これで幕引きは納得できない
2020年の東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場計画が白紙撤回された経過を検証してきた文部科学省の第三者検証委員会が報告書をまとめました。報告書は「国家的プロジェクト」を推進する体制がなかったことなどをあげ、事業実施主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長、監督官庁の下村博文文科相の「結果責任」を指摘しました。河野氏は今月末の任期で退任し、下村氏も来月初旬の内閣改造で交代する方向ですが、新国立建設を迷走させた責任は明確に認めていません。これで「幕引き」などとんでもない話です。
コスト意識欠如浮き彫り
新国立競技場計画は、2520億円もの桁外れの巨費が投じられることなどに国民の怒りが集中し、安倍政権が7月半ばに「ゼロベースで見直す」と表明し、白紙撤回に追い込まれました。現在、政府は総工費上限を1550億円にした「新基本計画」を決定し、設計などの公募がすすめられています。
第三者委員会は8月に設置され、総工費が膨張した経過や責任の所在などを検証してきました。今回まとめられた報告書は、JSCや文科省が「国家プロジェクトに対する認識の甘さや判断の遅れに対して、それらを早期にチェックして修正するメカニズムがなかった」と厳しく指摘しました。JSCも文科省も巨大な事業を実施する経験もなく、しかも権限を持つ責任者も不在だったというのは、ずさんとしかいいようがありません。両組織のトップの責任が問われるのは当然のことです。
この「無責任体制」のなかで意思決定をゆがめた存在として報告書が指摘したのは、国立競技場将来構想有識者会議です。同会議は、五輪組織委員会の森喜朗会長(元首相)などスポーツ界、建築界の有力者ら14人が顔をそろえています。諮問機関にすぎない会議に「実質的に主導権や拒否権を持つことを許した」(報告書)のは深刻です。第三者委員会は、森元首相からのヒアリングをしていませんが、有識者会議が、計画にどう影響を与えたかなどの解明も不可欠です。
総工費膨張要因について報告書は「上限が無いに等しい状況」と記しました。その背景に「多様な財源」を活用するとしサッカーくじ収入などをあてにした13年の安倍内閣の閣議決定があり、「足りなければ他の財源を期待する当事者意識の希薄化につながった」とも指摘しました。政府全体がコストに無頓着だったことを示すものです。
総工費が1300億円を超える可能性が示唆された13年9月から年末にかけての時期が「ゼロベースで見直しを行う一つのタイミングであった」と報告書が明記したことは重大です。当時すでに建築家や市民から計画見直しを求める声も巻き起こっていました。「五輪成功」を旗印に国民の疑問や警告に耳を貸さず、計画を見直すことなく突き進んだ安倍政権の姿勢が問われるのは明らかです。
過ちを繰り返さないため
白紙撤回後の新たな計画でも総工費の縮減や財源確保など課題が山積しています。迷走と失敗を繰り返さないためも、旧計画が破綻した原因解明と責任の所在を明確にすることは避けられない問題です。文科相交代などでうやむやにすることは五輪成功を願う国民の思いにも反します。
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