主張
年金情報漏れ検証
とても信頼回復につながらぬ
日本年金機構のコンピューターが外部からのウイルスメールにより不正接続され、125万件もの個人情報が流出した問題で、年金機構の調査委員会と、厚生労働省の設置した第三者検証委員会が相次いで報告書を公表しました。二つの報告書は、年金機構や厚労省の危機意識の欠如や対策の不備などは指摘したものの、社会保険庁を解体・民営化し年金機構を発足させた根本問題には踏み込みませんでした。ずさんな年金行政にたいする国民の不安や不信を拭い去るにはほど遠い内容です。
ずさんさは浮き彫りだが
6月初旬に大量の年金情報流出の事実が判明してから3カ月弱―。公表された二つの報告書は、年金受給者と加入者の重要な個人情報が、いかにぞんざいに扱われていたかを浮き彫りにしています。
発端は機構職員がウイルスメールを開封したことにありますが、パソコンがウイルスに感染にしてからも、機構や厚労省の危機感が薄く組織的な対応ができずにウイルス感染を拡大しました。とくにインターネットと直接つながるパソコンで個人情報を扱うことを原則禁じていたのに、仕事のしやすさを優先するため、その原則が守られていなかったことが被害を広げる大きな要因になりました。
年金機構にウイルスメールが届く約2週間前に厚労省年金局にも同種のメールが届きパソコンがウイルス感染したにもかかわらず、その情報が機構には伝えらなかったことも初めて明らかにされました。厚労省の認識の希薄さは深刻です。二つの報告書の「公的年金制度の大切な執行部分に責任を持つ緊張感、責任感、使命感が共有されていない」「厚労省の監督体制は有効に機能していたとはいえない」などの指摘は当然です。
しかし報告書は、国の組織だった社保庁が解体・民営化され、2010年に発足した年金機構の体制がもたらした業務のゆがみなどは問題にしていません。今回の情報漏れの背景には、民営化の際に年金実務に習熟した公務労働者を乱暴に解雇したことや、基幹業務を非正規労働者に大量に置き換えてきたことの弊害、人員体制の不備などが指摘されていました。民営化と一体で推進された外部委託拡大が、年金情報の保護管理にとって危険であることも明らかになっています。大きな背景にまで踏み込んだ検証と分析なくして、再発防止も国民に信頼される安心の年金制度の再生もできません。
社保庁解体・民営化を実行したのは07年の第1次安倍晋三内閣です。当時、5000万件にのぼる「持ち主不明」の年金記録が発覚し国が責任をもたない体制が大問題になったのに、国の責任を逆に後退させる解体・民営化を強行したことは重大です。安倍首相と、当時官房長官として民営化を推進した塩崎恭久厚労相の責任があらためて問われます。
マイナンバー中止が必要
今回の年金情報漏れは、政府が個人情報をきちんと保護・管理できるのかという国民の疑念を深めました。安倍政権は10月から住民1人残らず番号を割り振るマイナンバー制度を動かす構えですが、情報漏えいへの国民の不信と不安は解消されていません。企業や地方自治体の体制の不備も明らかになっています。マイナンバーの中止を真剣に検討すべきです。
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