主張
全国学力テスト
回重ねるほど弊害は明らかだ
文部科学省は21日、国公立の小学6年生と中学3年生の全員を対象にした全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)を実施しました。2007年に開始された全国学力テストですが、学校別平均点の公表、大阪府での高校入試への利用など、点数競争を激化させる弊害が回を重ねるほどに明らかになっています。
確かな学力に逆行
通常の学校のテストでは、授業内容を子どもたちが理解しているかを確かめ、それぞれの子どもがつまずいている点などを発見し、その後の学習指導に役立てられます。全国学力テストはそのようなことにはまったく役立ちません。結果が返ってくるのは実施から数カ月後です。答案用紙は返されず、渡されるのは各問題ができたかどうかを示す表だけです。何をどう間違えたかも分かりません。
にもかかわらず、各地で全国学力テストの平均点を競争することが目的化し、教育がゆがめられています。多くの教育委員会が学校に対して平均点のアップを求め、学校では管理職が「昨年の平均点を超えろ」「県内平均より上に」と教師を締め付けています。そのため、子どもたちは過去の全国学力テストの問題や類似問題を繰り返しやらされることになります。学力テスト対策のため、通常の6時間以外に7時間目の授業をする学校も出てきています。
そもそも学力テストの点数に表れるのは、その教科で学習したことの一部にすぎません。テストでは時間内にすばやく解答することが求められますが、学力を確かなものにするには、じっくり考えたり、話し合ったりすることが重要です。文科省も全国学力テストの結果について「学力の特定の一部分」「学校における教育活動の一側面」を示すだけだとしています。ところが現状は「どうやって学力テストの平均点を上げるか」が至上命令になり、学力テストに関係しない学習や行事などが削られています。学力テスト偏重は、一人ひとりに確かな学力をつけることに逆行しているのです。
文科省は14年度から、それまで禁じていた学校別平均点の公表を各教育委員会の判断でできるように変更し、32市町村が各学校の平均点を公表しました。学校の序列化や競争を加速させるものです。
文科省が建前にしている学力テストの目的は「学力や学習状況の調査」です。ところが大阪府教育委員会は、今回の全国学力テストから中学3年の結果を、府立高校入試の内申点に反映させることを決めました。府教委の決定は、「調査」結果の目的外使用であり、子どもをいっそう点数競争に追い立てるもので、許されません。
こうした問題が後を絶たないのは、抽出調査で済むはずの学力調査をわざわざ全員対象ですることに固執する文科省の責任といわざるをえません。「調査」が目的外に使われ、どんどん競争を激しくしている現実は、全国学力テストの破たんを示すものです。
目が行き届く教育条件を
全国学力テストは直ちに廃止すべきです。毎年約60億円が使われている予算を少人数学級の実施などに回し、学習が遅れがちな子どもへの丁寧な支援ができるようにするなど、一人ひとりの子どもに目が行き届く教育条件の整備にこそお金をかけるべきです。