安倍晋三政権は「高度プロフェッショナル制度」と名付けた労働時間の適用除外制度をつくる労働基準法改悪案を今国会に出そうとしています。「残業代ゼロ」「過労死促進」法案とよばれるものです。「無限の長時間労働がまん延する」という日本共産党の志位和夫委員長の追及に安倍首相はまともに答えることができませんでした(20日、衆院予算委員会)。制度の問題点をみてみます。 (昆弘見)
該当する労働者は、労働基準法第4章で定めている労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金にかかわるいっさいの労働時間規制の対象外になります。つまり週40時間、1日8時間という労働時間制限が適用されず、仕事が深夜に及ぼうと休日出勤しようと割増賃金を払わずに働かせてもいいという制度です。
安倍首相は、対象業務や年収について「厳格な要件」を定め、健康確保措置をとると弁明しました。しかしこれらはまったく歯止めになりません。
年収は、労働者全体の平均賃金の「3倍を相当程度上回る」(省令で1075万円とする)額としています。なぜこの金額なのか。
「平均賃金の3倍をもらう労働者は特別に体が丈夫なのか。どんなに働いても『過労死』しないのか」
志位氏の追及に安倍首相も塩崎恭久厚生労働相も根拠を明確にできませんでした。「使用者との交渉力がある」と根拠にならない根拠をあげました。
これは極めて重大です。根拠が明確でないということは、その後の都合で自由勝手に変えられるということです。法律をつくるときは3倍といって安心させて、あとでどんどん引き下げられる危険性が濃厚です。
これは悪法を国民におしつけるときの手口です。労働者派遣法も最初は派遣可能業務を11業務に限定していたのがいまや全面自由化です。今回の制度の立案にかかわった産業競争力会議の竹中平蔵氏は「小さく生んで大きく育てる」とねらいを語っています。
経団連は2005年に「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の適用除外)」制度の導入をうちだしたとき、年収要件を400万円にしていました。この制度の本家であるアメリカでは「週給455ドル」(現在の1ドル=119円で換算すると5万4145円)が要件です。こういう低い収入の労働者が残業代の適用を除外されています。
志位氏の質問に安倍首相は「健康の確保に十分留意する」とし、対策として「在社時間等を把握したうえで一定の休日を必ず与える」などとのべました。
把握するのは労働時間ではなく「在社時間等?」。初めて聞く訳のわからない話です。厚生労働省がつくった法案要綱(案)では「健康管理時間」となっています。
「健康管理時間」とは何か。労働基準法をはじめ労働分野の法律、公文書のどこを探しても出てきません。医学用語にもありません。厚労省に問い合わせると今回の法案で初めて使う「新しい概念です」という返事です。
内容は「会社にいた時間」と「社外で働いた時間」の合計時間で、企業はこの新概念の「健康管理時間」を把握して健康を守る措置をとるというのです。
これはむちゃくちゃな議論です。もともと労働基準法が定めている労働時間規定は健康保持が目的です。労働時間規定の適用除外というのは健康除外にほかなりません。これが常識です。
時間ではなく成果で評価する新しい制度だといって労働時間規制を外し、割増賃金の支払いを気にせず成果が出るまで長時間働かせる仕組みができれば財界は万々歳です。しかし健康を守る保障を奪うものだという正当な批判を突破できず、何度も導入に失敗してきました。
「健康管理時間」というのは、健康破壊の「過労死促進」制度という批判をかわすために知恵をしぼった「造語」であり、新しい手口です。
問題は「健康管理時間」を把握してどんな措置をとるのかです。次の三つのうちの一つを選択します。全部ではなく、いずれか一つです。
(1)始業から24時間経過するまでに休息時間を確保する。深夜業の回数を定める(2)健康管理時間の範囲を定める(3)年間104日以上の休日を確保する。
このなかで企業の多くが選ぶとみられているのが(3)です。年間104日の休日というのは、単純計算で週休2日です。つまりお盆や正月、国民の祝日(15日)も休まず、有給休暇もとれないということです。
これが健康管理措置です。ちなみにブラック企業と名指し批判された「ワタミ」の社員募集要項の休日は「年間107日」です。「ユニクロ」は「120日以上」です。
「高度プロフェッショナル」は、ブラック企業も笑う劣悪な働き方です。
今回と07年の法案要綱とを比べてみると、今回の制度は企業に対する罰則規定が甘くなっているのが特徴です。
たとえば今回と同様07年のときも、該当する労働者に年間104日以上の休日を確保するとしていました。ところが07年のときは「確保しなかった場合には罰則を付す」と明記されています。今回はこの罰則規定がなくなっています。
さらに07年は、行政官庁が必要と認めたとき、企業に対して改善命令を出すことができるとし、「従わなかった場合には罰則を付す」としていました。今回は改善命令そのものがなくなりました。
罰則規定の行く先は労働安全衛生法です。すでに紹介した新概念の「健康管理時間」(省令で定める)を超えた労働者に医師の面接指導を受けさせるとし、これに違反した企業に罰則を科すとしています。
少ない休日さえ与えないひどい働かせ方にたいする罰則はなくなり、医師の面接をおこたったときだけ罰則をつけるというのは、はなはだしい企業寄りというべきです。
年収「3倍」の根拠なし
勝手に引き下げも
「高度プロフェッショナル」。安倍首相は「グローバルに活躍する高度専門職として働く人」といいました。該当する労働者は、労働基準法第4章で定めている労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金にかかわるいっさいの労働時間規制の対象外になります。つまり週40時間、1日8時間という労働時間制限が適用されず、仕事が深夜に及ぼうと休日出勤しようと割増賃金を払わずに働かせてもいいという制度です。
安倍首相は、対象業務や年収について「厳格な要件」を定め、健康確保措置をとると弁明しました。しかしこれらはまったく歯止めになりません。
年収は、労働者全体の平均賃金の「3倍を相当程度上回る」(省令で1075万円とする)額としています。なぜこの金額なのか。
「平均賃金の3倍をもらう労働者は特別に体が丈夫なのか。どんなに働いても『過労死』しないのか」
志位氏の追及に安倍首相も塩崎恭久厚生労働相も根拠を明確にできませんでした。「使用者との交渉力がある」と根拠にならない根拠をあげました。
これは極めて重大です。根拠が明確でないということは、その後の都合で自由勝手に変えられるということです。法律をつくるときは3倍といって安心させて、あとでどんどん引き下げられる危険性が濃厚です。
これは悪法を国民におしつけるときの手口です。労働者派遣法も最初は派遣可能業務を11業務に限定していたのがいまや全面自由化です。今回の制度の立案にかかわった産業競争力会議の竹中平蔵氏は「小さく生んで大きく育てる」とねらいを語っています。
経団連は2005年に「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の適用除外)」制度の導入をうちだしたとき、年収要件を400万円にしていました。この制度の本家であるアメリカでは「週給455ドル」(現在の1ドル=119円で換算すると5万4145円)が要件です。こういう低い収入の労働者が残業代の適用を除外されています。
「104日以上の休日」
「ワタミ」「ユニクロ」以下
労働時間規制が適用されない「高度プロフェッショナル」制度の最大の問題は、長時間労働による健康破壊から身を守る保障がなくなることです。志位氏の質問に安倍首相は「健康の確保に十分留意する」とし、対策として「在社時間等を把握したうえで一定の休日を必ず与える」などとのべました。
把握するのは労働時間ではなく「在社時間等?」。初めて聞く訳のわからない話です。厚生労働省がつくった法案要綱(案)では「健康管理時間」となっています。
「健康管理時間」とは何か。労働基準法をはじめ労働分野の法律、公文書のどこを探しても出てきません。医学用語にもありません。厚労省に問い合わせると今回の法案で初めて使う「新しい概念です」という返事です。
内容は「会社にいた時間」と「社外で働いた時間」の合計時間で、企業はこの新概念の「健康管理時間」を把握して健康を守る措置をとるというのです。
これはむちゃくちゃな議論です。もともと労働基準法が定めている労働時間規定は健康保持が目的です。労働時間規定の適用除外というのは健康除外にほかなりません。これが常識です。
時間ではなく成果で評価する新しい制度だといって労働時間規制を外し、割増賃金の支払いを気にせず成果が出るまで長時間働かせる仕組みができれば財界は万々歳です。しかし健康を守る保障を奪うものだという正当な批判を突破できず、何度も導入に失敗してきました。
「健康管理時間」というのは、健康破壊の「過労死促進」制度という批判をかわすために知恵をしぼった「造語」であり、新しい手口です。
問題は「健康管理時間」を把握してどんな措置をとるのかです。次の三つのうちの一つを選択します。全部ではなく、いずれか一つです。
(1)始業から24時間経過するまでに休息時間を確保する。深夜業の回数を定める(2)健康管理時間の範囲を定める(3)年間104日以上の休日を確保する。
このなかで企業の多くが選ぶとみられているのが(3)です。年間104日の休日というのは、単純計算で週休2日です。つまりお盆や正月、国民の祝日(15日)も休まず、有給休暇もとれないということです。
これが健康管理措置です。ちなみにブラック企業と名指し批判された「ワタミ」の社員募集要項の休日は「年間107日」です。「ユニクロ」は「120日以上」です。
「高度プロフェッショナル」は、ブラック企業も笑う劣悪な働き方です。
違反企業 罰則なし
改善命令もできず
「高度プロフェッショナル制度」は、第1次安倍政権時代の07年に導入しようとして失敗した「自己管理型労働制」を模様替えして出してきたものです。今回と07年の法案要綱とを比べてみると、今回の制度は企業に対する罰則規定が甘くなっているのが特徴です。
たとえば今回と同様07年のときも、該当する労働者に年間104日以上の休日を確保するとしていました。ところが07年のときは「確保しなかった場合には罰則を付す」と明記されています。今回はこの罰則規定がなくなっています。
さらに07年は、行政官庁が必要と認めたとき、企業に対して改善命令を出すことができるとし、「従わなかった場合には罰則を付す」としていました。今回は改善命令そのものがなくなりました。
罰則規定の行く先は労働安全衛生法です。すでに紹介した新概念の「健康管理時間」(省令で定める)を超えた労働者に医師の面接指導を受けさせるとし、これに違反した企業に罰則を科すとしています。
少ない休日さえ与えないひどい働かせ方にたいする罰則はなくなり、医師の面接をおこたったときだけ罰則をつけるというのは、はなはだしい企業寄りというべきです。
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