主張
「道徳」の教科化案
「考える」どころか国家が統制
文部科学省は小中学校の「道徳」を「特別の教科」(道徳科)にするため、学校での教育内容などを示した学習指導要領を改定する案を発表しました。「道徳」が教科化されると、国が定めた基準でつくられた検定教科書を使い、国の定めた観点で子どもたちを「評価」することになります。道徳への国家統制を強める方向です。
心を評価していいのか
教科化への懸念の一つは、子どもの道徳が評価の対象とされることです。広範な人びとから「子どもの心や価値観を評価していいのか」という声があがっています。国が定めた価値観で評価されれば、思想統制となりかねません。評価を気にして、「いい子」を演じる子どもが出てくることも考えられます。
教科化へのもう一つの懸念は検定教科書が導入されることです。すでに「道徳」の内容は現行指導要領で、民主主義の精神が読み取れないような中身で、こと細かく定められています。検定教科書を通じて、その通りの価値観を身につけることが今まで以上に押し付けられることになりかねません。
改定案が道徳科に関して「特定の見方や考え方に偏った指導を行わない」と踏み込んだことは、各地で平和や侵略戦争、憲法に関する授業を「偏向」だと攻撃する動きが強まっている中で危険なことです。平和や憲法について扱った教師が「指導要領に反する」とされ、自主的な授業ができなくなる可能性があります。
改定案が示した「明るい心で生活」「困難があってもくじけずに努力」「法やきまりを守る」といった道徳科の「内容」も問題です。
子どもたちは日々、悩んだり苦しんだりしながら成長します。「明るく」「くじけず」が「正しい」と押し付けられてはたまりません。法やきまりが間違っていれば、話し合って変えるのは当然のことです。それを教えずに無条件に従えというのは民主主義に反します。憲法で保障された基本的人権を互いに尊重しあうという観点は「内容」にはありません。
「国や郷土を愛する態度」が含まれていることも見逃せません。安倍晋三政権は、過去の侵略戦争を肯定・美化する勢力によって構成され、支えられています。戦前のように、子どもを戦争に駆り立てるための偏狭な「愛国心」が押し付けられる恐れがあります。
改定案はこの道徳科の「内容」を、各教科や「総合的な学習」、行事や学級活動、児童会・生徒会活動など学校教育の全般にわたって指導するよう指示しています。教師や子どもたちの授業や自主活動の自由が制約されかねません。
文科省は今回の教科化について、「考え、議論する道徳」を促すものだとしています。しかし、本当に子どもたちが考えあう道徳にしたいなら、評価と検定教科書で教師と子どもをしばる教科化は、きっぱりやめるべきです。
憲法に沿った内容で
文科省は改定案について意見公募をした上で3月中に指導要領を改定し、小学校は2018年度、中学校は19年度から実施する方針ですが、強行は許されません。
憲法や子どもの権利条約に沿い、基本的人権の尊重や民主主義の精神に立脚した市民道徳を、自由な雰囲気の中で培えるような教育と社会を築くことが必要です。
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