主張
日本人人質事件
政府対応の冷静な検証必要だ
「イスラム国」を名乗る過激武装組織による日本人人質事件をめぐる日本政府の対応は適切だったのか―。このことをしっかり検証することが、今回のような惨劇を繰り返さず、卑劣なテロから日本国民の安全を守るためにも、政治の責任として不可欠です。国会審議の中ではさまざまな問題が提起されています。事件の経過の節々で政府がとった対応や言動がどうだったのかを冷静に検証する必要が浮き彫りになっています。
演説の影響認識あったか
政府対応の問題で焦点の一つは、安倍晋三首相の中東歴訪(1月16~21日)です。
日本共産党の小池晃議員が参院予算委員会(3日)で明らかにしたように、昨年8月に湯川遥菜さんの拘束が明らかになり、後藤健二さんについても政府は11月に行方不明であることを知り、12月には犯行グループから後藤さんの妻に脅迫メールが送られてきたとの連絡を受けていました。政府は、2人の拘束の事実を知りつつ、首相の中東歴訪を行ったことになります。
とりわけ焦点になっているのは、首相のエジプトでの演説(1月17日)です。この中で首相は、イラク、シリアの難民支援やトルコ、レバノン支援について「ISIL(『イスラム国』)がもたらす脅威を少しでも食い止めるため」だとし、「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILとたたかう周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と語りました。
その3日後の20日、「イスラム国」メンバーとみられる人物が「日本政府はイスラム国に対するたたかいに2億ドルを支払うという愚かな選択をした」などとし、2人の身代金2億ドルを要求する映像が公開されました。同日、首相はイスラエルでの記者会見で、「非軍事的な分野でできる限りの貢献を行う」とし、「2億ドルの支援は地域で家を無くしたり、避難民となっている人たちを救うため、食料や医療サービスを提供するための人道支援」だと説明しましたが、エジプトの演説では「非軍事」「人道支援」と明言しませんでした。
首相は、エジプトでの演説は「不適切だったとは考えていない」と強調しています。しかし、そうした演説をすれば2人に危険が及ぶという認識が首相にあったのか、なかったのか。小池議員の質問は、今後も追及されるべき重要な提起です。
昨年、パレスチナ自治区ガザへの攻撃で多数の死傷者を出し、国際的な批判を浴びているイスラエルを、首相の訪問先の一つにした判断も問われています。
小池議員の質問では、政府が昨年8月からヨルダンに置いた現地対策本部の体制について、身代金要求の映像が流れた1月20日以降に初めて十数人を増員し、三十数人規模に強化したことも判明しました。政府がどれだけ危機意識を持って臨んでいたかも問題です。
異論を封じるのではなく
事実に基づき政府対応をただす国会議員の質問に対し、首相が「テロに屈することになる」などとまともに答えず、異論を封じる姿勢を示していることは問題です。これでは国会での検証そのものが成り立ちません。
冷静な検証のために必要な資料提供をはじめ、政府は誠実な態度をとることが求められます。
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