安倍政権は、開会中の通常国会に、労働時間制度を根本から変え、過労死を促進する「残業代ゼロ」制度の導入などを盛り込んだ労働基準法改悪案を提出する構えです。現在、労働政策審議会に厚生労働省による報告書骨子案が示され、検討が続いています。骨子案に盛り込まれている制度の問題を検証します。(昆弘見、深山直人、行沢寛史)
残業代ゼロ制度
労働時間規制をはずす
骨子案の最大の問題点は、「高度プロフェッショナル労働制」の名で「残業代ゼロ」制度の導入を提起していることです。
時間外労働や深夜・休日労働に対する割増賃金の支払い義務や労働時間の管理義務がなくなります。ただ働きを増やし、過労死を促進する大改悪です。
対象は、「高度の専門的知識を要する」業務と「時間と成果との関連性が強くない」業務として金融ディーラーなどを例にあげ、省令で定めるとしています。年収は1075万円以上としますが、省令で定めるため変更が容易です。経団連はこれまで400万円以上とするよう求めていました。
長時間労働防止措置として、(1)次の勤務まで「一定の時間以上の休息」(2)1カ月の在社時間と事業場外労働時間の合計(健康管理時間)が「一定の時間」を超えないようにする(3)4週4日以上、年104日以上の休日―のうち、どれかを選択するとしています。
しかし、年104日以上の休日といっても、労働時間規制を外して24時間働かせることが可能になれば、長時間労働の防止にはまったくつながりません。
医師の面接指導を強調していますが、残業時間が月100時間を超えた場合としており、過労死基準の80時間を超える残業を容認する姿勢です。
「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応える」というのが導入の理由ですが、すでに大企業などで成果・評価主義賃金といった「成果で評価される働き方」は導入されており、労働基準法を変えなければならない理由はありません。厚労省も経団連も審議会で認めています。
労働時間規制を外すのは、労働者を際限なく働かせるのがねらいです。
「働き過ぎ防止」
健康確保に実効性なし
骨子案には、「働き過ぎ防止のための法制度の整備等」が盛り込まれました。一部に長時間労働抑制につながる提案があるものの、全体として実効性は確保されないものです。
現行の労働基準法では、月60時間を超えて残業をさせた場合の割増賃金率は5割以上です。これまで適用を先延ばしされていた中小企業にも適用するよう提案しています。年次有給休暇の取得促進のために、時季指定を企業に義務付けるとしています。
しかし、全体として「働き過ぎ防止」の実効性がきわめて乏しいものばかりです。
残業の削減にむけた労使の取り組みで「1カ月に100時間」または「2カ月ないし6カ月にわたって、1カ月当たり80時間」を超える残業をした場合、適切な健康確保措置をとり、延長時間の縮減に取り組むことが望ましいとしています。厚労省の過労死基準は残業月80時間です。この時間を超えてから取り組むのでは遅すぎます。
労働時間改善の取り組みを「労使の自主的取組」に委ねていることも問題です。労働基準法で労働時間の上限を盛り込むなど法的規制の強化こそ求められています。
裁量労働制拡大
財界の要求を丸のみに
骨子案は、裁量労働制とフレックスタイム制の見直しを打ち出しています。長時間労働を促進するきわめてひどい内容です。
裁量労働制は、自分の裁量で仕事をする労働者の労働時間について、労使があらかじめ合意した時間だけ働いたとみなす制度です。労使協定が8時間であれば、それ以上働いても残業代が出ません。
専門業務型と企画業務型の二つのタイプがあります。このうち企画、立案、調査、分析の4業務を対象にしている企画業務型について、新たに「営業」と「管理」を加えます。製造と庶務経理などを除いて相当数の業務に導入できるようになります。
厚労省指針で営業は企画業務型に「該当しない」業務に例示されています(厚労省告示353号)。経団連は「提案型の営業もある」などといって、導入要件の大幅緩和を要求していました。
さらに事業場ごとの労使委員会設置と労働基準監督署への届け出義務を本社一括に改めるなどの要件緩和が盛り込まれています。財界の要請を丸ごと受け入れた内容です。
フレックスタイム制は、1カ月の労働時間(清算期間という)が平均して1日8時間、週40時間を超えない範囲で、1日、週の労働時間を延長できるものです。これを清算期間の上限を3カ月に延長します。残業代不払いの労働時間を増やそうというねらいです。