厚生労働省は16日、労働政策審議会(労政審)に「残業代ゼロ」「過労死促進」となる労働時間法制の改悪案を提案しました。安倍政権は、労政審での議論をへて、労働基準法改悪案を通常国会に提出しようとしています。日本の労働者の働き方はどうなるのか。労働者の実態から、制度の問題点と労働時間短縮の課題を考えます。(深山直人、行沢寛史)
今でも“長時間大国”
労使協定で“青天井”に
日本の一般労働者の労働時間は、年2003時間(2013年度、厚労省)、製造業は2226時間(総務省)。1人あたり年平均でも先進諸国のなかで最長グループに入り、長時間労働者の割合も最も高くなっています。
01年に5割を切った有給休暇の取得率は、12年には47・1%にまで低下しています。
世界各国は「ディーセントワーク」(人間らしい労働)を目指しているのに、日本ではサービス残業が横行し、過労死・過労自殺が社会問題となるほど異常な“長時間労働大国”となっているのです。
これは、法律に残業時間の上限がなく、労使協定を結べば“青天井”で働かせることができるからです。
経団連の榊原定征会長が会長を務める東レは、最大で月100時間、年間900時間の残業協定を締結。「過労死ライン」とされる月80時間の残業時間を超えています。
時間規制の適用外す
対象業務いつでも拡大
厚労省が提案した労働時間法制の改悪案は、労働時間短縮という労働者の願いに逆行しています。
一つが「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)」です。
これは、時間外・休日労働協定の締結や、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払い義務など労働時間を規制するすべてのルールを適用しない制度です。労働者に際限のない長時間労働を押し付けるものです。
厚労省案は、対象を「高度の専門知識等を要する」「時間と成果との関連性が強くない」業務とし、金融商品の開発やディーリング業務などを例示し、年収1075万円以上としました。この枠組みでは、対象が全労働者の4%弱で、「限定」しているかのように見えます。
しかし、対象の業務も労働者もいつでも拡大できるものであり、「小さく産んで、大きく育てる」ことをねらうものです。実際、経団連の榊原会長は、「少なくとも全労働者の10%程度は適用を受けられるような制度にすべきだ」と語っています。
厚労省は、対象労働者について長時間労働防止措置なども盛り込んでいる、としています。しかし、具体的な中身は法案成立後に省令で決めるとしており、なんの保証もありません。労働時間規制の土台に大穴を開けながら、その下にザルを敷くようなものでしかありません。
さらに骨子案は、裁量労働制の見直しを提案しました。対象となっている企画業務型に、法人事業の企画・立案などにかかわる営業などを加え、手続きも現在の事業所ごとではなく、本社一括で可能にするなど導入しやすくします。また、始業・終業時刻を労働者が決めるフレックスタイム制について、労働時間増減の清算期間を1カ月から3カ月に延長し、残業代の支払いを抑えようとしています。
いずれも労働時間規制を骨抜きにする改悪です。
時間外労働の上限に規制を
抜本的短縮で466万人の雇用拡大
異常な長時間労働をなくすためには、法的規制の強化が必要です。
残業は年間360時間以内という大臣告示を直ちに法定化し、過労死基準(月80時間以上)を超える残業時間を許す残業協定の「特別条項」は廃止すべきです。
残業割増率を現行25%から50%に引き上げるとともに、労働基準法を抜本改正して残業時間も含めた規制を強化すべきです。
EUのように、連続休息時間(勤務間インターバル)として最低11時間を確保させることも重要です。
審議会で労働者側は、時間外労働の法的規制、勤務間インターバル規制の導入、残業時間の特別割増率(月60時間以上)の中小企業への適用などを求めています。
こうして労働時間を抜本的に短縮すれば、雇用の拡大にもつながります。労働総研の試算では、サービス残業をなくし、有給休暇の完全取得などで466万人の雇用拡大につながります。
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