橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」による究極の大阪破壊を許すのか、維新に決定的な審判を下し、住民の暮らしと自治を守り抜くのか―。大阪府市両議会で昨年否決された「大阪都」構想の協定書(設計図)が、公明党の方針転換で、2月の両議会にほとんどそのままの内容で再提出され、可決される恐れが強まっています。維新・公明は、構想の是非を市民に問う住民投票の5月17日実施でも合意。「都」構想とは何かが改めて問われています。 (藤原直)
大阪市廃止 知事に力集中
「大阪都」構想とは、政令市である大阪市を廃止し、府に従属する五つの特別区に分割する構想です。府は市から多くの権限と財源を吸い上げます。また、市の廃止に伴い、橋下氏の「何でも民営化」に慎重な態度をとってきた大阪市議会も解体されます。維新関係者はこれも狙いだと語ってきました。要するに、「都」構想とは、府知事という「一人の指揮官」が、やりたい放題にできるようにしていく仕組みづくりなのです。仮に同構想が実現すれば、橋下氏がそれを「成果」と描き、大阪の住民を踏み台にして国政に進出するのは時間の問題です。
維新は再編後の府を「大阪都」と呼んでいますが、現行の法律では名称は「府」のままです。一方、「大阪市」の名前は地図からも消え去ります。
「効果額」霧消 福祉犠牲に
「都」構想は、府と市の「二重行政の無駄解消」を口実としてきました。しかし、維新が「二重行政」だと決めつけ、廃止・統合計画を進めてきたのは、府市で補い合っていた病院、大学、市民施設など需要のある住民サービスそのものです。
当初、維新が毎年4000億円と豪語していた「都」構想による「二重行政」解消の「効果額」は雲散霧消しています。橋下氏が府市大都市局にはじき出させた「効果額」も、特別区への再編とは直接の関係がない市独自のサービス削減や民営化などによるものばかりだと判明。厳密な意味での「効果額」について昨年の議会で問われた同局は「算出していない」と答えています。住民にとってのマイナスを「効果額」として計上していたこと自体が「都」構想の本質を示しています。
大阪市を廃止して特別区を設置しても、そのこと自体で生まれる財源はないに等しいにもかかわらず、コストだけは重くのしかかります。大都市局の試算でも、新庁舎の整備費など初期費用だけで約600億円もかかり、特別区は、最初の5年間で1071億円もの収支不足が生じるとされています。
維新の言う、特別区での住民サービスの充実も、財源がなければ絵に描いた餅にすぎません。充実どころか、切り縮めざるをえなくなるのが実態です。
首長が中心 貧困な「自治」
維新は、住民の声が届きやすい特別区の設置でより身近で充実した住民自治の実現をめざすと主張してきました。しかし、その実態は住民自治の充実とはかけ離れています。
まず、市が特別区に再編されると、固定資産税や法人市民税といった自主財源が府に取り上げられ、財政調整交付金を交付する府に依存せざるをえないという問題があります。
昨年の審議では、市を五つの特別区に分割しながら、住民から遠い巨大な一部事務組合を共同で設立し、国保・介護・水道など膨大な実務を担わせるという制度設計にも批判が集中しました。この組合の歳出規模は約6400億円。堺市の全会計の予算規模に匹敵する水準です。
維新は、特別区では、公選区長が住民の声をダイレクトに施策に反映すると主張します。一方ではチェック役の区議会の定数を極端に抑え込んでいます。
例えば、新設しようとしている人口約34万人の「湾岸区」では12人。同じ人口規模の東京都北区の3分の1以下です。
住民自治の充実は、首長だけでなく、議会、職員、住民参加の仕組みなど、あらゆる回路を通じてのみ実現するものです。公選区長さえいれば何でもできるかのように言い、議会定数を極限まで減らす制度設計に“ゆがんだ首長中心政治”への志向が端的に表れています。
無駄な大型開発 目白押し
「大阪都」で何をするのか。一番はっきりしているのが大型開発です。維新が示している「大阪都の経済成長戦略」には、▽大阪(梅田)から関西空港までの5分、9分の時間短縮に約2500億円をかける地下鉄道「なにわ筋線」の整備▽交通量が減る中で3000億~4000億円をかける高速道路・淀川左岸線延伸部の建設▽府民・国民の富を吸い上げる大阪へのカジノの誘致と関連整備―など関西財界が繰り返し要求してきた無駄と浪費のプロジェクトが目白押しです。
衛星都市からは「大阪都」になったら「市町村の福祉・医療を支える府の機能が大きく変質するのでは」との危惧の声も上がっています。しかも、「都」構想は、大阪市の廃止で終わるものではありません。橋下氏はいまだに、堺市を含む大阪市の隣接11市を特別区に再編するプランを公言しています。さらに、「都」構想を道州制へのステップと位置付ける一方で、府県が廃止されても「大阪都」は残すなどと虫のいいことを主張しています。
党利党略で自治破壊
今回の異常事態の中心問題は、維新が昨年、法とルールを踏みにじって作成した、でたらめな協定書を、大阪の府市両議会が明確に否決したにもかかわらずよみがえらせ、住民の判断に丸投げしようとしていることです。公明党の方針転換の陰には菅義偉官房長官や創価学会の存在があるとも報道されています。政権の思惑や党利党略で大阪の自治を踏みにじる異常さも批判されなければなりません。
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