主張

基地環境管理協定

米軍特権への切り込み不可欠

 在日米軍基地を抱える自治体が強く求めている基地への立ち入り調査など環境管理に関する補足協定について、安倍晋三政権が、米側と「実質合意」したと宣伝しています。しかし、実態は、立ち入り手続きの作成さえいまだ米側と交渉中であり、何らの「実質合意」にも達していません。中身のない空疎な「合意」をあたかも「基地負担軽減」に向けた前進であるかのように見せかけるのは、沖縄県知事選で現職知事を後押しするためでしかありません。こうした姑息(こそく)なやり方は、沖縄県民の批判を強めるだけです。

排他的管理権を維持

 沖縄では、基地内での事故の発生などによる環境汚染や日本側への基地返還前の土壌汚染の有無の確認について、米側が、自治体の立ち入り調査要請を拒否したり、長期間認めなかったりし、大きな問題になってきました。昨年8月、沖縄県宜野座村の米軍演習場で起きたヘリ墜落事故でも、県や村による立ち入り調査ができたのは7カ月後でした。

 こうした理不尽な事態が起こるのは、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定が、米軍に基地の運営、警護、管理などのため必要な全ての措置を取ることができる排他的管理権を与え(3条)、立ち入り許可も米側の裁量次第になっているからです。

 今回の日米合意は、米軍基地の環境管理に関して地位協定を補足する協定を締結するというものです。その上で同協定には、▽日米などの環境基準の中でより厳しい方の採用▽環境汚染事故後の立ち入りと土地返還に関連した現地調査のための立ち入りに関する手続きの作成▽日本政府による環境に配慮した米軍施設の提供や米軍の活動への資金提供▽情報共有―についての規定を置くとしました。

 こうした内容は、日米両政府が昨年12月、米軍基地の環境管理に関する枠組みづくりのため協議を開始するとした共同発表にすでに盛り込まれていたものです。今回の合意で新しいのは、その枠組みとして補足協定の締結で合意したということだけです。

 基地の立ち入り手続きの作成も昨年12月の共同発表でうたわれていましたが、「まだその手続き自体をアメリカと交渉している」のが実態です。(日本共産党の井上哲士議員に対する冨田浩司外務省北米局長の答弁、10月28日、参院外交防衛委員会)

 重大なのは、地位協定3条が規定する米軍の基地の排他的管理権には手を付けようとしていないことです。「(地位協定3条の規定)これ自体は、在日米軍が日米安保条約上の義務を履行するために日本に駐留をし、その円滑な活動を確保する上で必要」(同前)との姿勢で、米軍の活動を優先するままでは事態は何ら変わりません。

新たな日本側負担も

 地位協定は、基地返還に際し、環境汚染の原状回復義務を米軍に課さず日本側が行うことになっていますが、この点も「変更がない」(同前)としています。在日米軍の維持経費は米側の全額負担とした地位協定の原則にも反し、日本側の新たな財政負担を規定しようとしていることも重大です。

 自治体が切実に求める実効ある措置を実現するためには、地位協定が保障している米軍特権に切り込むことが不可欠です。