主張

財政審の報告書

社会保障を「脅威」と扱う異常

 財務大臣の諮問機関・財政制度等審議会が「財政健全化」についての報告書をまとめました。日本財政を「改善」する基本方向を示したとしていますが、もっとも強調されているのは、社会保障費の大削減路線です。「社会保障給付の増加が財政の健全性にとって脅威となり続ける」とあからさまな敵意を示しています。国民の安心を支える社会保障費が増えることを、ここまで「目の敵」にする方針は異常というほかありません。

暮らし破壊に追い打ち

 報告書は、6月に安倍晋三内閣が決める「骨太の方針」に向けて出されたものです。社会保障制度にたいする国の財政支出を「我が国財政の悪化の最大要因」と決めつけるなど、社会保障費削減の必要性に多くの記述を割いて力説しているのが最大の特徴です。

 昨年の報告書には、軍事費について「厳しい財政」への考慮を求める記述がわずかでもあったのに、今年の報告書では軍事費コスト減についての指摘は項目ごと消え去りました。軍拡をすすめる安倍政権の姿勢の露骨な反映です。

 社会保障費削減のなかでもとくに、やり玉に挙げたのが、世代人口が多い「団塊の世代」(1947~49年生まれ)の高齢化問題です。2025年に「団塊の世代」がすべて75歳以上になる時代に向けて、医療、介護、年金などあらゆる分野で、いっそう強力な給付削減と負担増を求めています。

 医療費については「適正化への取組みが形骸化」しているとして、都道府県ごとに「支出目標」という上限の設定を提言しました。必要な医療を無理やり抑え込む乱暴きわまるやり方です。患者の窓口負担に一律一定額を上乗せする「受診時定額」の導入を執拗(しつよう)に求めるのも、多くの患者を公的医療から締め出す狙いからです。

 介護では「保険外サービス」の活用強化を求めました。国会で審議中の医療・介護総合法案の改悪内容にとどまらず、いっそうの制度破壊に拍車をかけるものです。

 年金では「支給開始年齢の引き上げ」や、支給額の大幅カットなどを示しました。生活保護では、住宅扶助や子どものいる世帯への加算の減額を強く要求しました。いま全国各地で年金削減や生活保護費減額は不当だとする審査請求や裁判が相次いでいるのに、その怒りの声に耳を貸さず、さらに減額を迫るのは、逆行しています。

 消費税率を8%に引き上げた直後の報告書で、社会保障を破壊する方針をここまで列挙したことは、「消費税増税は社会保障の充実のため」という口実が成り立たないことを浮き彫りにしています。

所得増やす経済改革こそ

 高齢化による社会保障費増は、国民の暮らしや、健康と命を守るための必要な支出です。むしろ日本の社会保障費の対GDP(国内総生産)比は欧州諸国より、きわめて低い水準です。それを「脅威」とみなして削減に突き進むことは、憲法25条にもとづく暮らしを保障する政治とは無縁の姿です。

 必要なことは、軍事費などムダの一掃と、大企業への応分の負担による社会保障再生・拡充です。同時に国民の所得を増やし、内需主導の経済成長による経済改革をすすめることです。それは財政危機打開につながります。安倍政権の消費税増税・社会保障解体政治からの転換こそ重要です。