主張
安保法制懇報告案
多国籍軍の戦争参加は重大だ
安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は5月にも提出する報告書で、海外での武力行使に道を開く集団的自衛権の容認と合わせ、国連安全保障理事会の決議に基づき武力行使する「多国籍軍」に自衛隊が参加することも可能とする見解を盛り込もうとしています。日本を「海外で戦争する国」にするための極めて重大な解釈改憲の動きです。
国際紛争の解釈変更
安保法制懇の北岡伸一座長代理は、時事通信のインタビュー(10日)で、大型連休明けにも提出する報告書の中で、集団的自衛権の行使を禁じる現行の政府の憲法解釈を見直すとともに、「(自衛隊が)多国籍軍に参加することに憲法上の制約はない」という判断を示すことを明らかにしました。
北岡氏は、自衛隊の多国籍軍参加を可能にするため、憲法9条1項で武力の行使を禁止している「国際紛争」に関する政府解釈を繰り返し批判してきました。
9条1項は、戦争と武力の行使を国際紛争を解決する手段として永久に放棄すると規定しています。同項について政府はこれまで、日本への武力攻撃に対する必要最小限度の実力行使を除き、「国際関係において武力を用いることを広く禁ずる」趣旨だと説明してきました(2004年8月4日、衆院イラク特別委、秋山收内閣法制局長官=当時など)。つまり、同項の「国際紛争」とは日本への武力攻撃以外の国際紛争一般を指し、これを解決するために武力行使をしてはならないという解釈です。海外での武力行使は禁じられるということです。
これに対し北岡氏は9条1項の「国際紛争」とは「日本が当事者である国際紛争を指すと解すべきだ」(2月21日、日本記者クラブ会見など)とし、極めて狭く解釈するよう主張しています。そうなれば日本が当事者ではない国際紛争での武力行使に憲法上の制約はなくなってしまいます。日本の領土問題などが絡まなければ、国連安保理決議に基づき武力行使する多国籍軍にも参加可能になります。
北岡氏は、自身の主張を正当化するため、1928年の不戦条約以来の国際法が否定しているのは、国策の手段としての戦争や武力の行使であり、9条1項の意味も同様だと述べています。しかし、そうした主張は、戦力不保持、交戦権否認を規定した9条2項の存在をまったく無視した暴論です。
9条2項は、不戦条約や国連憲章などの国際法には例のない先駆的な規定です。内閣法制局長官経験者からも、北岡氏のように、9条1項だけを取り上げて国際法基準と同じだという解釈をとれば、2項の特別の規範性はなくなり、あってもなくても同じということになってしまうとの批判が上がっています。
イラク戦に参加可能
米国は03年、国際社会の圧倒的多数の反対の声に逆らい、イラク侵略戦争を強行しました。米国はその際、国連安保理決議に基づく行動だと強弁し、日本政府も支持しました。北岡氏流の解釈を許せば、将来、そうした戦争が起こった時に、今度は自衛隊も戦闘に参加することになってしまいます。日本を「海外で戦争する国」にするあらゆる暴走を許さないたたかいが重要です。