首相らの根拠のなさ 裏付け
安倍政権が集団的自衛権の行使容認の根拠としようとしている1959年12月の「砂川最高裁判決」(別項)について、政府の法令解釈などを担う法制局(現・内閣法制局)の林修三長官(当時)が、集団的自衛権については「未解決」との見解を示していたことが分かりました。同判決を集団的自衛権の根拠とする考えには専門家から批判の声が相次いでいますが、その批判を明確に裏付けるものといえます。
54年から64年まで法制局・内閣法制局の長官を務めた林氏は旬刊誌『時の法令』(当時は大蔵省印刷局発行)に「砂川判決をめぐる若干の問答」と題する一文を掲載。この中で「わが憲法がいわゆる集団的自衛権を認めているかどうかという点も、なお未解決だね。個別的自衛権のあることは今度の判決ではっきりと認められたけれども」(60年344号)と述べています。
自民党の高村正彦副総裁は3月31日に開かれた首相直属機関「安全保障法制整備促進本部」での講演で、「最高裁は59年の砂川判決で、個別的とか集団的とか区別せずに…固有の権利として自衛権は当然持っていると言っている」と主張。安倍首相も同様の国会答弁を行っています。
一方、林氏は、砂川判決が個別的自衛権については認定しているものの、集団的自衛権の保有については判断していないとしており、高村氏の主張とは真っ向から反しています。
さらに林氏は、砂川最高裁判決の趣旨は駐留米軍が憲法9条2項に違反しないという点であるとの見方を示した上で、「現行安保条約はもっぱら米軍の行動とか権利のことを規定しているだけで、わが国のそういう問題を具体的に規定していないのだから、判決が(集団的自衛権に)触れていないのは当然」とも述べています。
砂川判決直後、岸信介首相(当時)が集団的自衛権について「憲法上は、日本は持っていない」(60年3月31日、参院予算委)と答弁するなど、むしろ集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの解釈が確立しています。
砂川判決 米軍駐留の合憲性が最大焦点になった判決。1957年7月に米軍立川基地(旧砂川町、現・立川市)の拡張に抗議するデモ隊の一部が基地内に立ち入ったとして、日米安保条約に基づく刑事特別法で起訴(砂川事件)。東京地裁は59年3月、米軍は憲法9条2項が禁じた「戦力」にあたり、駐留は違憲だとして無罪を判決。これに対して最高裁は同年12月、米軍は「戦力」ではないとして一審判決を棄却しました。判決に先立って最高裁と日米両政府が密議を交わしていました。