安倍晋三首相が「海外で戦争する国」づくりへ狙う集団的自衛権の行使容認のための解釈改憲。いま「なぜ解釈変更なのか」「政策決定が乱暴すぎる」と足元の自民党内で異論・批判が続出しています。同党は17日に通常の政策決定の手続きにない総務懇談会を開き、解釈改憲問題を議論することになりました。
総務懇談会の開催は、同党が郵政民営化問題で分裂した2005年以来です。
「外交上、どうしても解釈変更をやらねばならないという実態が何かわからない。それがないのに、議論しているのは単なる言葉遊びで意味がない」。安倍首相が6日に石破茂幹事長ら党執行部に指示した解釈改憲の与党調整の動きに、自民党有力議員の一人は厳しく批判します。
安倍首相が“米国に向かうミサイルを撃ち落とせなければ同盟国の関係が壊れる”などといって、集団的自衛権行使を容認する国会答弁をしていることに、この有力議員はあきれ顔です。
「実際にアメリカを攻める国があるのか。机上の論理はともかく、アメリカを攻めたらどの国も逆にやられるのだから、そんな国があるわけない」「集団的自衛権を今やらなければならない切迫感はない。自衛隊を海外に出すことに賛成できない」
連立を組む公明党からも、安倍首相の手法に「『国民の声を聴く』という一番大切な部分が欠落しており、到底賛成できない」(漆原良夫国対委員長)との声が上がっています。自民党の大島理森前副総裁は自身のブログで漆原発言に理解を示し、「立法府がどうコミット(関与)するかということは立法府の見識として考えなければならない」と指摘しています。
小泉政権時に改憲を強く主張した山崎拓・自民党元幹事長は4日のBS番組で「安倍首相の国会答弁にはおれの独壇場だというおごりが見える。最もシンボリック(象徴的)なのは解釈改憲だ」「憲法改正する責任は総理にではなく、国民が決める。私は改憲論者だが、憲法という最高法規を変える手続きは憲法に書いてある」と批判しました。
テレビ朝日系の世論調査(2月22、23両日実施)では解釈改憲を「支持しない」が51%で、「支持する」の26%を大きく上回っています。
首相が党内調整指示
集団的自衛権の行使問題をめぐる自民党と公明党との与党協議は、政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が報告書を出す4月にスタートする見通しです。
他方、安全保障を担当する礒崎陽輔首相補佐官は、安保法制懇の報告書の提出とほぼ同時に政府提言の原案を出すとしています。検査入院から復帰した小松一郎内閣法制局長官は「内々に検討も議論も局内でやっている」(2月26日の衆院予算委分科会)と述べ、既に内閣法制局で検討を進めていることを明らかにしています。
与党内の本格調整のたたき台になるのは、政府原案です。安保法制懇の報告書発表の予定にあわせ、急ピッチで作業を進めつつあることをうかがわせます。
17日の自民党総務懇談会には、石破茂幹事長や高市早苗政調会長も参加し、政府からは加藤勝信官房副長官に出席を求め、憲法解釈の変更問題を議論するとしています。
こうした党側の動きに対し安倍晋三首相は6日、集団的自衛権に関する今後の段取りを協議するため、石破氏や高村正彦副総裁、高市政調会長を個別に呼び、公明党の理解を得つつ議論を進めるよう求めました。
与党内調整を見据えた党執行部の「党内地ならし」も本格化しています。石破氏は6日、自らを支持する党内グループ「無派閥連絡会」で講演。「中国や米国、アジア太平洋地域(の安全保障環境)はどうだろうと考えたとき、(行使容認は)いつでもいいという話ではない」と訴えました。
他方、与党内の亀裂の深まりを前に、6日の安倍首相との会談後、石破氏は記者団に「与党内の理解、国民の理解をきちんと得た上で、やっていかねばならない」と述べています。
(中祖寅一・前野哲朗)