安倍政権が「海外で戦争する国」づくりの暴走を強めています。憲法改定について「しっかりと着実に取り組んでいく」(安倍晋三首相、1月29日の参院本会議)と国会で答弁し、集団的自衛権行使を可能にする解釈改憲と明文改憲を両にらみで日本維新の会やみんなの党などを巻き込む“改憲翼賛体制”を築こうとしています。(中祖寅一)
「懇談会の議論を待ちたい」。通常国会の代表質問で集団的自衛権行使問題を追及された安倍首相は答弁を避け続けました。一方、安倍首相が「待ちたい」とした「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」は4日にも会合を開き、憲法解釈変更の必要性を明記した報告書の原案を出すと報じられます。
「心から歓迎」
安倍首相は施政方針演説(1月24日)で改憲もテーマに上げて「政策の実現を目指す『責任野党』とは柔軟かつ真摯(しんし)に政策協議を行っていく」と表明。これに対し安倍政権の補完勢力ぶりを強めていた維新、みんな両党が「憲法改正、集団的自衛権について胸襟を開いて大いに議論をしよう」(維新・松野頼久国会議員団幹事長)「心から歓迎」(みんな・渡辺喜美代表)と翼賛姿勢を示しました。
維新は1月31日、党内に安全保障調査会を新たに設置することを決定。「早期に党の見解をまとめ、集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党をけん制したい」(党幹部)としています。
安倍首相は、みんなの渡辺代表に直接電話をかけて政策協議を呼びかけ(1月24日)。渡辺氏は前向き姿勢を示し、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更も「テーマになりうる」「4月に政府の懇談会の結論がまとまるようだから、その前後までに党としての立場をまとめていきたい」としています。
世論との矛盾
昨年末、秘密保護法案の審議で与党と「修正」合意し、同法の成立に協力してきた維新、みんなの両党は広範な国民から“補完勢力”として厳しく批判され、みんなの党は大分裂に追い込まれました。その“補完勢力”を改めて「責任野党」と持ち上げる安倍首相。明文改憲・解釈改憲両にらみで、反対世論を無視して強行突破の「翼賛体制」を築くことが狙いです。
歴代政権が「行使できない」と禁じてきた集団的自衛権についての憲法解釈をクーデター的手法で変えていくことには、従来の保守層からも強い抵抗があります。世論調査では、解釈改憲による集団的自衛権行使容認「反対」は53%(共同通信1月調査)にのぼっており、国民との矛盾はいっそう深刻となっています。
強行許さぬ共同・世論を
安倍首相の暴走は与党内にも波紋を広げています。自民党の石破茂幹事長は代表質問(1月28日)で、集団的自衛権の問題に関し、「多くの国民の理解と支持を得る努力の積み重ね」を強調し、「短期間に『あれもやろう、これもやろう』などという拙速を厳に戒めなくてはならない」と述べました。また、同日の会見で「今国会中に結論を出すことが目的ではない」と発言。「通常国会中に結論を」という官邸側の意向とのずれを示しました。
維新、みんなを取り込んで、集団的自衛権論議の加速を狙う安倍首相の動きに対し、公明党や自民党内の慎重論に配慮を示さざるを得ないのです。
憲法解釈の変更に積極的とされる小松一郎内閣法制局長官が体調不良で入院したことも、「大きな不安定要素」と指摘されています。
協議機関提案
一方で、明文改憲の動きをめぐっては、自民党憲法改正推進本部の船田元・本部長が1月30日の同本部の役員会で、憲法改正原案について議論する与野党協議機関の設置を野党に呼びかけることを提案。維新とみんなを引き込み、改憲原案のすり合わせ作業を急ぐ動きです。
船田氏は、改憲のための国民投票法の改定も早期に決着する意向を表明しました。
これに対し、みんなの党は、国民投票法の改定案についても積極的に協議に応じ、共同提案も検討するとしています。維新も運動方針で「憲法改正の国民投票法の整備」を明記しました。
姿勢の背景に
安倍政権の改憲への強い前のめりの姿勢の背景には、改憲・右翼団体「日本会議」の存在もあります。
日本会議の三好達会長(元最高裁長官)は、機関誌『日本の息吹』1月号で「憲法改正の実現へ!」と題し、衆参で改憲勢力が3分の2を確保したことを強調。「今こそ憲法改正運動を前進させ、改正を実現しなければならない時」「今を逃せば、その機会は、また遥(はる)かに遠のいてしまう」と気炎を上げています。同氏は、「でき得る限り早期に、我々国民が憲法改正の国民投票をすることができるように」「国会議員の尻をひっぱたく」などとのべています。
同誌では、自民党の高市早苗政調会長の、「この3年間が絶好の時期」「まず国民投票法の宿題を解決することが第一歩」という発言(昨年11月の日本会議全国代表者大会)も紹介されています。
ここからは、集団的自衛権の行使への憲法解釈変更を今年中に強行しながら、憲法審査会での改憲原案作りを進め、再来年(2016年)の参議院選挙までに、改憲の国民投票にこぎつけたいという意思も浮かびます。
存在意義失う
しかし、秘密保護法強行に対し鳴りやまぬ国民の反対や、安倍首相の靖国参拝強行に対し世界中から湧き起こった批判、沖縄県・名護市長選での辺野古新基地建設への県民の歴史的審判など、「戦争する国」づくりは矛盾をさらに国内外で激しくしています。
安倍首相が「責任野党」と持ち上げ、改憲翼賛体制への組み込みを迫る維新、みんなも、国民的基盤を失って窮地に追い込まれています。
維新の橋下徹共同代表は、「大阪都」構想実現が見通せず、議会を無視して大義のない「出直し市長選」を狙うなど、国政進出から一年半で解党的危機に瀕しています。みんなの党も秘密保護法での自民擦り寄りによる大分裂で勢力は激減し、いっそうの自民党への擦り寄りでますます存在意義を失っています。
改憲翼賛体制による強行を許さぬ、広範な国民共同の構築、世論の発揮が求められます。
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