「慰安婦は戦争国のどこにもいた」「政府が右と言えば、左と言うわけにはいかない」(25日)と発言し、公共放送会長として資格が問われているNHKの籾井勝人会長。政府は「コメントすべきではない」(安倍晋三首相、28日衆院本会議)、「放送法に基づいて職務を果たしていただきたい」(菅義偉官房長官、27日)などとかばっています。
「国会で選ばれた(NHK)経営委員のみなさんが籾井会長を最適任者だという形で選ばれた」。菅長官は27日の会見で、籾井発言による安倍政権への影響回避に躍起になりました。
籾井会長は昨年12月にNHKの新たな経営委員会のもとで選任されました。その経営委員の任命は安倍内閣が行い、与党の賛成多数で国会が同意。しかも、昨年11月に任命された5人は、政治的立場で安倍首相に極めて近い人物です。
例えば、長谷川三千子元埼玉大学教授は、改憲・右翼団体「日本会議」の代表委員。日本会議機関誌『日本の息吹』2012年11月号で、安倍首相の自民党総裁再選(当時)を祝し、「戦後レジーム(体制)からの脱却」という首相の宿願にも触れ、「日本そのものを取り戻すための再挑戦―を応援したい」と述べています。
また、同じく経営委員に任命された小説家の百田尚樹氏は、雑誌『Voice』13年4月号で、「安倍政権では、もっとも大きな政策課題として憲法改正に取り組み、軍隊創設への筋道をつくっていかねばなりません」と公言しています。
「戦後レジームからの脱却」と安倍首相が目指す憲法改定と歴史修正の願望を、根本的に共有する人物がNHK経営委員に任命されたのです。その経営委員会のもとで「慰安婦は戦争国のどこにでもいた」といってはばからない人物が不偏不党をうたう公共放送のトップに選ばれる―。
国民の知る権利に奉仕し、権力の監視を担うべき公共放送が、権力と一体化して国民を「支配」する仕組みに変質させられるという、民主主義にとって極めて重大な問題です。
安倍首相は「侵略の定義は国際的に定まっていない」(昨年4月)などとして、村山首相談話(1995年)や河野官房長官談話(93年)を攻撃してきた首相自身の言動を、いまだに首相自身の言葉で撤回していません。籾井氏の発言の背景には、こうした安倍首相の姿勢があります。(中祖寅一)
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