市民団体など「撤回を」

 NHKの経営委員会委員5人の人事案が、8日の衆参両院本会議に諮られます。その顔ぶれは「安倍首相に近い」と評されるため、ジャーナリストや学者、市民団体から「安倍首相のNHKへの介入につながる人事」だとして、撤回を求める声が上がっています。

 05843d17795b181bd1b31850d7b2da77ca3efa125人は、百田尚樹(ひゃくたなおき)氏(作家)、長谷川三千子氏(哲学者)、本田勝彦氏(日本たばこ産業顧問)、中島尚正(なかじまなおまさ)氏(海陽学園海陽中等教育学校長)、石原進氏(JR九州会長=再任)。

 百田氏は自身のブログで憲法9条への揶揄(やゆ)を繰り返し、雑誌の対談で安倍首相と「意気投合」。長谷川氏は右翼・改憲団体「日本会議」の代表委員を務め、昨年の自民党総裁選で「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人に、百田氏とともに名前を連ねました。

 本田氏は安倍首相の小学生時代に家庭教師を務めた深い間柄。中島氏の学園も安倍首相に近い財界人の肝煎りでつくられました。再任の石原氏は、昨年の総選挙時に「原発推進」を繰り返し訴え批判を浴びました。

 NHK経営委員は、視聴者の代表として公共放送の生命線である「公正・公平」を時の権力から守る役割を担います。しかし、菅義偉官房長官は記者会見で「(首相が)信頼する方にお願いするのは当然」だと述べ、安倍首相の“お友達”を据えたことをあけすけに語っています。

アベさまのNHK?―経営委員人事で何ねらう

秘密保護法や原発報道に影響も

 大手民放幹部らとの会食を繰り返し、メディアを手なずけてきた安倍首相。公共放送NHKには自らの意向に沿う人物で経営委員を固めようとする手段に出てきました。首相のねらいはどこにあるのでしょうか。

第1次内閣時も

 あるNHK職員はいいます。

 「この人事は安倍さんがNHKをコントロールしようとする第一歩。今回決まる委員も含めた経営委員がだれを会長に選ぶのかが、いちばん気になることです。政治権力に対抗して放送していくのが、ジャーナリズムの役目。焦点になっている原発、憲法、集団的自衛権などの問題を鋭く報道し続けられるかどうかにかかわってくる可能性があるからです」

 現在の松本正之会長(元JR東海副会長)の任期は来年1月まで。経営委員会は、執行部のトップである会長の任命権を持ち、12人の委員のうち、9人以上の賛成で選ばれます。安倍政権は一気に公共放送の2トップを手中にしようとしているのです。

 安倍首相は、これまでも露骨な形でNHKに介入してきました。第1次安倍内閣の2007年、富士フイルムホールディングスの古森重隆社長が突然、経営委員長に内定しました。経営委員長は委員会での互選というルールを安倍首相が無視し、「自身との関係の近さ」を決め手としました。

 経営委員長にすわった古森氏は、会合で「国際放送では国益を主張せよ」「選挙期間中の歴史もの(番組)の放送には注意を」と発言。自民党議員を励ます会にも出席するなど、安倍首相に応えた“実績”を残しました。

 2001年に日本軍「慰安婦」問題を取り上げたETV番組へ圧力をかけて改変させたのも、当時官房副長官だった安倍氏です。

国会で否決を

 永田浩三武蔵大学教授は、ETV番組のプロデューサーでした。永田氏は4日、神戸市で市民団体が開いたシンポジウムに出席。参加者に訴えました。

 「いま、NHKの秘密保護法についての扱いはきわめて小さく、自民と公明のやりとりをめぐる政局としてしか報じていない。首相の意を受けた経営委員が大量に入ってくるのを怖がって、すでにニュース報道がねじ曲がっているのではないかと思います」

 安倍首相の戦略に市民団体から批判の声が広がっています。「NHK問題を考える会(兵庫)」(貫名初子代表)は10月31日、NHK経営委員と衆参両院議長に対し「安倍首相の経営委員会人事をテコにしたNHKへの介入と支配に断固反対する」とした声明を送付しました。

 「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」(醍醐聰、湯山哲守共同代表)も4日、「側近を大量にNHK経営委員会に送り込む安倍首相の専断的手法を許さないために同意人事の否決を!」と題した声明を発表しました。

 NHK経営委員会 放送法の規定で経営方針や毎年度の予算などの重要事項を決定するほか、会長や理事の任免も行うNHKの最高意思決定機関。委員は衆参本会議で同意を得て総理大臣が任命します。12人で構成し、委員長は互選で選ばれます。任期は3年。