主張
所定内賃金
14カ月連続減少は深刻な事態
労働者の賃金が上がり、安定した雇用が拡大しなければ、景気の回復はありえません。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、7月分の所定内賃金が前年同月比で0・4%減となり、ついに14カ月連続の減少となりました。一時金を加えた総額でかろうじてプラスになったとはいえ、賃金の基本ベースである所定内賃金が安倍晋三政権になって一度も上がらず、下がる一方という事態は異常です。国民の多数が「アベノミクス」による景気回復を実感できないのは当然です。
賃上げなき「成長戦略」
労働者の賃金は、1997年をピークに70万円も減っています。パートや派遣など非正規雇用が同時進行して増え、年収200万円以下の労働者が1000万人を超えています。こうした賃下げと雇用の不安定化による国民の暮らし破壊が、日本経済を「デフレ不況」にしてしまった一番の原因です。
大企業はいま、利益が出ても賃金のベースアップはせず、一時金の増減で対応するやり方をとっています。トヨタ自動車は、2002年以降12年間で、わずか1000円のベースアップが3回あっただけで、あとはすべて「ベア・ゼロ」です。
大企業は、このようなやり方で賃金コストを抑え、260兆円を超える内部留保をため込んできました。歴代の自民党中心の政権が、労働法制の改悪で労働者を低賃金で雇える非正規雇用化をすすめて、バックアップしたことはいうまでもありません。安倍政権は「アベノミクス」による「成長戦略」で「企業がもうかれば、やがて労働者の賃金が上がり、雇用もよくなる」と宣伝しますが、これは幻想でしかありません。
安倍政権には、雇用のルール破壊の目標はあっても、賃上げと安定した雇用拡大の目標がありません。安倍政権になって最初の「労働経済白書」(2013年版「労働経済の分析」)が8月末に出ました。様変わりです。昨年の「白書」は、労働者の所得の低下を日本経済低迷の原因にあげ、企業の付加価値(利益)を有効活用し、労働者への分配を増やすことなどを提起していました。
ところが今回の「白書」は逆です。下がっている所定内賃金については、1998年以降「変動は総じて小さ」いと描き、正規雇用も1985年と2010年の「2時点」でみると「わずかながら増えている」という驚くべき分析です。80年代から増え続けていたのが減少に転じ、元に戻ってしまった深刻な賃金、雇用の実態を隠すためのトリックというほかありません。そのうえで職務などを限定し解雇しやすい「限定正社員」の普及をはじめ、「成熟分野」から「成長分野」への労働移動や「多様な働き方」の整備などの労働政策の推進を提起しています。
内部留保の活用を
企業が活動しやすい国をめざす安倍政権の「成長戦略」では、賃金も雇用も改善しません。いま必要なのは、何よりもまず大企業がもっている260兆円の内部留保の一部を賃上げと雇用の改善に使うことです。政府の責任で最低賃金の大幅引き上げと中小企業対策を強化すること、公務員賃金の引き下げをただちに中止することなど、国民の所得を増やし暮らしを改善する対策です。