【カイロ=小泉大介】エジプトでイスラム主義組織・ムスリム同胞団出身のモルシ大統領が就任1周年を迎えた6月30日、大統領退陣と早期選挙実施を求めるデモが全土で取り組まれ、地元メディアによると合わせて数百万人が参加しました。2011年はじめの「革命」時を上回る規模の国民が、新たな独裁を許さない断固とした決意を示した歴史的な日となりました。
「今日は新たな革命の始まりだ!」。首都カイロでは、大小さまざまなデモが各地で取り組まれ、中心部のタハリール(解放)広場や郊外の大統領宮殿を目指しました。多くの車がクラクションを鳴らして連帯するなど、街全体が熱気に包まれました。
同広場で公務員の女性、オムネイヤ・アリさん(26)は「(昨年6月の)大統領選挙でモルシ氏に投票してしまったことが本当に悔しい」と語った後、「大統領が同胞団支配達成のために国民をだまし続けるなら、私たちは街頭から声を上げ続けます」ときっぱり。一方、大統領宮殿前では銀行員の男性、ムスタファ・アフメドさん(31)が「モルシ大統領誕生で、同胞団の正体が誰の目にも明らかになりました。私たちは革命の第2波で彼らを包囲するだけです」と力を込めました。
エジプト空前デモ―新時代の到来告げる
2011年はじめの「革命」でムバラク独裁体制を倒したエジプト国民が6月30日、「革命第2章」ともいうべき新たなたたかいの扉を開きました。国民をここまで駆り立てたのには、やむにやまれぬ理由がありました。
昨年6月の大統領選決選投票は、モルシ現大統領とムバラク時代最後の首相を務めたシャフィク氏とのたたかいとなりました。イスラム主義組織・ムスリム同胞団出身のモルシ氏は多数派獲得のため、「私は全国民の大統領となる」「国民が権力から去れといえば私はそうする」とまで約束し、僅差で勝利しました。
しかし国民を待っていたのは、公約違反のオンパレードでした。
独裁者の誕生
その象徴が、昨年11月の「権力集中宣言」です。大統領令は司法でさえも覆せないとした宣言の意味は、国民にとって新たな独裁者の誕生以外の何物でもありませんでした。翌月には、世俗派の反対にもかかわらず、イスラム色の強い新憲法制定をゴリ押しします。
ムバラク体制を支えた警察による拷問はとどまることなく、非政府組織「ナディム人権センター」がこのほど発表した報告書によれば、今年1月から5月の間に282件の拷問が行われ、161人が死亡しました。
さらに経済的には無策で、物価高や失業率増加に加えて外貨準備高は現在、「革命」時の約3分の1にまで激減。停電は日常茶飯事で、路上では給油を何時間も待つ車の列がいたるところで見られる状況です。
21人いた顧問のうち約半数が政権運営に抗議し去っていく事態に至っても、モルシ大統領は野党や国民が求める超党派「救国政府」の樹立を拒否しつづけます。逆に、新政権発足当時、35人の閣僚中5人だった同胞団メンバーを2回の改造を経て現在は11人にまで増やしています。
青年たちの姿
「パン、自由、社会的公正」という「革命」の目標に逆行する政治に対し、国民は新たなたたかいに打って出ます。“反抗”という名の新組織が5月に開始した大統領不信任と早期選挙実施を求める署名活動です。
わずか13人の青年が立ち上げた“反抗”の取り組みは、瞬く間に全土に広がり、6月30日までに目標の1500万人を大きく超える2200万人の賛同を得ました。
朝早くから深夜まで、街頭で必死に署名を訴える若者たちの姿。それは、エジプトに新たな時代の到来を告げるものでした。この活動が、30日の大規模デモに息吹を与えたことは疑いなく、国民のたたかいは「革命」時に比べてもさらなる高みに達したといえます。
エジプトが今後も紆余(うよ)曲折を経ることは間違いないでしょう。しかし、この1年間の国民的経験は必ず未来につながる、これが、30日のデモ参加者の多くが語った確信です。(カイロ=小泉大介)