主張
米国の情報監視
「対テロ戦争」の見直しをこそ
米政府が、電話の通信記録やネット上のメールなどの個人情報を大規模に監視していることが明るみに出て、オバマ政権が内外からの批判にさらされています。政権側は、テロに対処するうえで不可欠だと主張しています。
テロはけっして容認されず、政府は国民の安全を確保すべきです。しかし、権力による広範な人権侵害は正当化できません。問題の背景にはテロへの対処を「戦争」とみなし、どんな手段も許されるとする米国の姿勢があります。
「監視社会」化の懸念
米政府機関による個人情報の収集は、秘密のベールに覆われ規模も大きいだけに、実態がはっきりしていません。それでも、米中央情報局(CIA)元職員による暴露の後、連邦捜査局(FBI)は米国内の電話にいつ、どこから通話があったなどの履歴を収集し、手続きをとれば会話の盗聴もできることを認めました。マイクロソフトやグーグルなどのネット企業も、国家安全保障局(NSA)の調査に協力していることを認めています。司法省がAP通信社の事務所や記者宅の電話を盗聴していたことも明らかになっています。
こうした情報収集は米国を「監視社会」化するものだとして、権力の暴走に批判が出ているのは当然です。批判は国際的にも広がっています。欧州連合(EU)は域内諸国民の通信記録が収集されている可能性を懸念し、米政府に説明を求めています。
米政府は情報収集を合法だと主張しています。しかし、根拠とされるのは「愛国者法」など、2001年の同時テロ後の好戦的な雰囲気のなかでつくられたり改定されたりした法律で、それ自体に批判があるうえに、運用のあり方が問題視されてきたものです。
オバマ政権は、パキスタンやイエメンなどで無人機による暗殺作戦を展開していることでも、国際的に批判を浴びています。こうした攻撃はその国の主権を踏みにじり、人道上も国際法上も見過ごせない重大な問題です。とりわけ一般市民を巻き添えにしていることは許されません。
無人機攻撃を「テロとの戦争」との理屈で正当化してきた米政権も、国際的批判の高まりに手直しを余儀なくされています。オバマ大統領は5月の演説で、目標を限定するなどの政策を発表しました。ただ、無人機攻撃をはじめとする米国の行動自体は「自衛」のための「合法的」なものだと、あくまで正当化しました。
情報収集が明るみに出たのはその直後です。この問題を取り上げた下院司法委員会で、与党の重鎮コンヤーズ議員はこう指摘しました。「懸念は情報監視だけにあるのではない。対外政策で無人機への依存が高まっていること、政府が説明責任を避けるために『国家機密』論を使うことにもある」
法に基づく裁きで
テロは犯罪であり、法に基づく裁きこそがあるべき対処のあり方です。しかし米国はテロへの対処を「戦争」と位置づけることで、不当な政府活動をも正当化しています。その「対テロ戦争」路線を、オバマ政権もブッシュ前政権から引き継いでいます。
オバマ大統領は先の演説で「米国は岐路に立っている」と述べました。それなら「対テロ戦争」の考えをこそ見直すべきです。