首相が橋下・高市発言を誘発
「侵略の定義」撤回せず
自民党の高市早苗政調会長が「国家観・歴史観については安倍晋三首相自身、(東京裁判を受け入れた歴代政権と)違った点もある」「侵略という文言を入れている村山談話にしっくりきていない」(12日)と発言。日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)は「慰安婦制度は必要だ」「侵略の定義がないことは安倍首相が言っているとおりだ」(13日)と異常な暴言を吐いています。
これらの発言は、日本の過去の「植民地支配と侵略」を謝罪した村山首相談話(1995年)と、日本軍「慰安婦」問題の強制性と政府の関与を認めた河野官房長官談話(93年)を否定する狙いを秘めたものですが、安倍首相の発言に依拠している点で共通しています。
安倍首相は昨年末の「産経」インタビューで、村山談話と河野談話を見直す発言を行いましたが、日本共産党の志位和夫委員長の追及を受けて日本軍「慰安婦」問題については、発言を「封印」した経過があります。
高支持率背景に
ところが、高支持率を背景に歴史問題でも「封印」をといて暴走を開始。4月21日、日本の侵略戦争を正当化する靖国神社に麻生太郎副総理らが参拝、安倍首相自らも真榊(まさかき)を奉納しました。翌22日の参院予算委員会では安倍首相が、村山談話について「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と発言。同23日には「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と歴史を逆行させる姿勢を示しました。これらの首相発言は、「主権回復の日」式典(4月28日)や憲法記念日(5月3日)を前に歴史逆流と改憲世論づくりをすすめる役割を果たすとともに、高市、橋下両氏など逆流勢力を調子づかせる結果となっているのです。
国内外からの批判の大きさに慌てた菅義偉官房長官は、「村山談話を引き継ぐ」(13日)として高市氏をたしなめ、橋下発言について「歴代(談話)と同様の思いをもって臨んでいる」(14日)としましたが、安倍首相自身がいまだに「侵略の定義は定まっていない」との発言を撤回していません。政府としても今秋以降に「安倍談話」作成の有識者懇談会を設置する方針を堅持しています。
地位失うことに
そもそも第2次世界大戦後の世界秩序は、かつての日本とドイツとイタリアによる戦争が不正・不義の侵略戦争だったとの歴史認識を共通の土台としています。日本がこのまま過去の戦争を侵略戦争と認識せず、憲法9条改悪で土台をくつがえしてしまう動きを具体化することになれば、日本が世界で生きていく地位を失うことになりかねません。
安倍首相の歴史認識とこれに呼応する自民党や日本維新の会の発言は、日本の前途に責任を負わない改憲勢力の正体をさらすとともに、古い自民党政治の「土台が腐りきっている」ことを雄弁に証明しています。
(松田繁郎)