派遣問題を振り返る
戦後、間接雇用を禁止 直接雇用・正社員が当たり前
マツダ「派遣切り」裁判で原告15人中13人を正社員と認める山口地裁判決が出され、2008年のリーマン・ショックの「派遣切り」「非正規切り」に対し、正社員化を求める裁判闘争にふたたび光があたっています。派遣問題とは何かを振り返ります。 (田代正則)
戦前の周旋屋
戦前の作家、小林多喜二の小説「蟹工船」に、労働者を売り飛ばす「周旋屋」が登場します。
戦前の人貸し業、たこ部屋などといわれる悲惨な労働実態は、間接雇用から生まれました。戦後の民主化で、間接雇用による労働者供給事業は全面禁止され、職業安定法に明記されました。
「間接雇用」とは何か。通常の直接雇用では、労働者は自分が働く企業と直接、労働契約を結びます。
派遣など間接雇用では、労働者が派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業に派遣されて働きます。派遣先企業は雇用責任を負いません。
常用代替の禁止
一度は厳しく禁止されたはずの間接雇用ですが、財界要求で1985年に職業安定法の例外として業務を限定して労働者派遣法が制定され、間接雇用が復活しました。
派遣労働を導入するかわり、条件がつきました。一つ目は、派遣は「臨時的、一時的な場合に限る」「常用雇用の代替禁止―正社員を派遣に置き換えてはならない」という大原則です。二つ目は、大原則を確実に守るため、派遣受け入れの期間を制限することになりました。
「常用代替の禁止」というのは、恒常的に存在する業務には、直接・無期雇用の正社員を働かせるべきであり、派遣労働者に代えてはならない、ということです。マツダの場合、自動車を製造することは恒常的業務ですから、そこに派遣労働者を働かせることは問題になります。
派遣期間の制限
「常用代替の禁止」の原則を守るため、派遣受け入れに期間制限がつくられました。どんどん制限が緩められましたが、現在、派遣期間は原則1年、最大3年までです。制限期間を超えて働かせる必要があるならば、それは恒常的業務なので直接雇用の正社員として雇いなさい、ということになります。
厚生労働省の指針で派遣労働者を3年働かせた後、次の派遣労働者を受け入れるまでの期間が3カ月未満の場合、継続されたとみなされます。この3カ月を「クーリング期間」といいます。
マツダは、派遣会社と共同して派遣労働者を3カ月と1日だけ直接雇用の「サポート社員」にして、また派遣に戻すという「クーリング期間」の偽装を行いました。だから山口地裁判決は、「常用雇用の代替防止という労働者派遣法の根幹を否定する施策」だと断罪し、原告を正社員と認めたのです。
偽装請負
派遣労働者を「常用代替」とする違法・脱法はまだあり、その代表が「偽装請負」です。
請負とは、請負会社が企業から完成品の注文を受け、依頼主の企業からの指揮命令は受けずに、完成品を渡す取り引きです。「偽装請負」では、企業が請負会社に完成品を発注するとみせかけて「請負」として契約し、実際にはその労働者を企業が指揮命令して働かせています。本当の姿は派遣なのに請負と偽装して、最大3年の派遣期間制限を超えて働かせようというわけです。
黙示の労働契約
松下(現パナソニック)プラズマディスプレイの「偽装請負」事件では、大阪高裁が08年4月、パナソニックと原告に「黙示の労働契約」があったとして、直接雇用を認める判決をだしました。
「黙示の労働契約」とは、書面などでの明確な労働契約がなくても、日々の指揮命令や賃金の支払い方などで使用従属関係にある場合、労働契約の暗黙の了解を認めようということです。
一度は大阪高裁で労働者が勝利した松下プラズマディスプレイ裁判ですが、最高裁は09年12月、偽装請負を認定しながら、派遣先企業の雇用責任を免罪する不当判決を出しました。以来、この最高裁判決に追随する「労働者敗訴」判決が相次ぎました。
山口地裁判決
流れを変えたのがマツダ「派遣切り」裁判での山口地裁判決です。労働者派遣法の枠内ではマツダの責任を「不問にすることになる」と指摘し、明確に正社員としての「黙示の労働契約」を認め、松下プラズマディスプレイ最高裁判決を乗り越えました。
全国で裁判闘争をつづける「派遣切り」裁判原告に激励と勇気を与えるものです。
専門業務
現在の派遣法にはまだまだ問題があります。たとえば、「専門26業務」は、専門性が高いから雇用は安定し、給料も高いとされ、派遣期間制限の最長3年も適用されず、何年働いても、直接雇用になりません。その専門業務には「事務用機器の操作業務」などがあり、“パソコンを使えば専門扱い”が問題になりました。
日本共産党提案
日本共産党は「雇用は、期限の定めのない直接雇用―正社員が当たり前」の本来の原則を掲げ、▽製造業派遣の全面禁止▽抜け道を許さないため「専門26業務」を抜本的見直し▽違法派遣をした場合は労働者を正社員とみなす▽派遣労働者への均等待遇原則の明記、などを提案しています。