主張
マツダ「派遣切り」
正社員と認定した画期的判決
自動車大手メーカー、マツダの防府工場(山口県)で「派遣切り」された労働者が労働組合をつくって正社員としての地位確認をもとめて争っていた裁判で、山口地裁(山本善彦裁判長)がその主張を認め、正社員の地位にあることを確認するという判決を出しました。これまでの「派遣切り」裁判の判決は、メーカー側の違法性は認めるものの損害賠償などにとどまるケースが多く、明確に正社員としての地位を確認した判決は異例であり、画期的です。
黙示の労働契約が成立
判決でとくに注目されるのは、派遣労働は「臨時的・一時的業務に限る」「常用雇用の代替にしてはならない」という労働者派遣法の大原則にそってマツダの派遣労働の実態を判断していることです。この立場がいかに重要かは、製造業の大企業の多くがこの原則に反して恒常的な業務に長期にわたって派遣労働者を入れている実態があります。これまでの「派遣切り」裁判ではこの原則をみないで労働者に不利な判決を出す傾向がありました。山口地裁の判決は、原則にそって違法行為を認定した点で重要な意義があります。
判決は、マツダの派遣の運用を職業安定法で禁止されている「労働者供給契約に該当する」ときびしく認定しています。マツダは「サポート社員制度」という独自のやり方で派遣を運用してきました。これは派遣には最大3年という期間制限があるために、3年を迎える派遣労働者を3カ月と1日だけ「サポート社員」として直接雇用し、その後また派遣にもどす制度です。判決はマツダがこのような脱法行為を派遣元企業と結託して「組織的かつ大々的」に実施してきたと認定しました。さらに派遣労働者をランク付けして賃金を支払っていたなどの実態にてらして「もはや労働者派遣と評価することはできない」と断言しています。
マツダの「サポート社員制度」については、日本共産党の志位和夫委員長、仁比聡平参院議員(当時)らが国会質問で、実態は違法な供給事業だと指摘していましたが、判決はこれを裏付けました。判決は、こうした実態を一つひとつ判断し、派遣労働者は実質的にマツダの使用従属関係にあったとして、マツダと労働者のあいだで「黙示の労働契約の成立を認める事ができる」と明言したのです。
「黙示の労働契約」について最高裁は2009年12月、パナソニック・プラズマ・ディスプレイの偽装請負事件で、労働者派遣法の違反であっても「特段の事情」がないかぎり派遣労働者と派遣元との雇用関係が無効になることはないと、否定する判決を出しています。これがその後の裁判をしばってきました。
たたかいに大きな激励
しかし今回の判決は、労働者派遣法の枠内では被告(マツダ)の責任を「不問にすることになる」などとして、派遣労働者と派遣元との労働契約を無効とする「特段の事情がある」と、最高裁の判断を乗り越えました。このことはきわめて重要です。
08年のリーマン・ショック後相次いだ「派遣切り」で解雇された非正規雇用の労働者がいま全国で60件を超えて正社員化をもとめて裁判闘争をつづけています。今回の判決はこのたたかいに大きな激励と勇気を与えるものです。