原発新基準 このどこが安全

「世界最高の安全」なのに「リスクは残る」

再稼働の強行は許されない

 安倍政権は、原子力規制委員会が7月に策定する原発の「新安全基準」をテコに、原発の再稼働を強行しようとしています。しかし、「新安全基準」骨子案の中身を見れば、「世界最高水準の安全」をうたいながら、原発の危険から国民の安全を守れないものです。(「原発」取材班)

原因究明はまだ

 国会の事故調査委員会が昨年2月、福島第1原発1号機の原子炉建屋4階にある非常用復水器の現場調査を申し入れた際、東電から「真っ暗」などと虚偽の説明を受けて、調査を断念していたことが最近、発覚しました。

 1号機だけに備わっていた、緊急時に原子炉を冷却する非常用復水器が機能しなかったことは「その後の事故の進展を急激に悪化させた」(国会事故調)とされる問題です。

 国会事故調が現場調査しようとしたのは、東電の主張と異なり、非常用復水器が地震によって損傷した可能性があると考えていたからです。国会事故調は他にも1号機の非常用ディーゼル発電機の機能が失われた原因が津波ではないことなど、地震によって重要機器が損傷した可能性を指摘しています。

 1月に開かれた「新安全基準」の専門家による検討会に出席した東電の担当者は、次のように語りました。

 「すべてがわかっている状態ではありません。炉心溶融した後、原子炉格納容器にどのような影響を与えたのかなどは確定しておりません」

 事故から2年になろうとしているのに、事故の経過さえわかっていないのです。

 福島第1原発の現状は「収束」とは程遠く、事故原因の究明を尽くさないのに「対策」など取りようがありません。

対症療法的対応

 規制委が今月6日に了承した「新安全基準」骨子案は、福島の事故を踏まえたかのように装っていますが、その中身は、消防車や電源車など、持ち運び可能な機材で対応するなど、対症療法的な対策を並べたものです。

 しかし、地震と津波が起きて、がれきが散乱しているような場合、対応できるかどうか検証されていません。「手順書を整備」などとしているだけです。

 しかも、事故の進展が速いケースに対して、「絶対に間に合わない」「難しい」と、「新基準」を検討する専門家さえ疑問符を付けていました。

 骨子案の議論は「スケジュール先にありき」でした。冷却に失敗すればコントロールができなくなる原発の致命的な欠陥や、福島第1原発で深刻な問題になっている放射能汚染水などは問題にもせず、結局、自民、公明、民主が賛成した原子力規制委員会設置法で定められた今年7月施行に間に合わせる議論に終始しました。

地震対策も問題

 地震対策も問題です。

 骨子案は、原発の真下に、活断層の「露頭」(地表に露出した断層)がない地盤に設置するとしています。これは、真下に活断層が走っていても、「露頭」が真下になければ設置できることを意味します。

 また、活断層の定義について、骨子案は「後期更新世(12万~13万年前)以降の活動が否定できないもの」と従来と同じ定義を踏襲。後期更新世が明確に否定できない場合に限って、約40万年前以降の古い地層まで調べるとしました。

 しかし、政府の地震調査研究推進本部は2010年の報告書で活断層を「約40万年前程度を目安」としており、原発だけが、活断層の範囲を限るのは問題です。これで「世界で最も高いレベルの安全」(規制委の田中俊一委員長)と言えるでしょうか。
 
最後の策は放水

 骨子案では、事故で原子炉格納容器が壊れ、放射性物質が環境中に放出される場合を想定しています。しかし、その深刻な過酷事故の最後の対策は、屋外に放水設備を備えるというものです。

 規制委の事務局は、放出される放射性物質を豪雨のような水によって沈降させ、拡散量を10分の1から100分の1に減らすのだと説明するだけで、住民は被ばくの危険を避けられないことが前提になっています。しかも、規制委の聞き取りに際し、専門家からも「効果は期待できない。実験で確認すべきだ」と指摘されました。

 大量の放射性物質を放出する過酷事故を想定しながら、その一方で「世界最高の安全」を強調する―。このどこが「安全」なのでしょうか。

 こうした矛盾の指摘に、20日開かれた規制委定例会で、更(ふけ)田(た)豊志委員は「どのような対策を施そうとも、どのような防護策を幾重にも設けても、なお残るリスク(危険)を示す」と述べました。客観的な「安全基準」など不可能です。結局、「安全基準」といっても福島原発事故で示された原発の危険から、国民の安全を守るものではありません。

 安全を置き去りに、「安全基準のもとで再稼働を判断する」(安倍首相)などというのは決して許されません。

過酷事故対策検証されず

 2007年の新潟県中越沖地震に見舞われた東電柏崎刈羽原発では敷地の広い範囲で液状化が発生し、地盤は沈下、斜面は崩落、道路には亀裂が走りました。福島第1原発でも地震と津波で道路は陥没し、膨大ながれきが散乱したため、敷地内は危険な状態へ変わり果てました。骨子案に示された過酷事故対策がこうした状態で対応できるのか、検証されていません。