国民誤らせるTPP報道
政府のごまかし そのまま
権力監視の誇りどこへ
23日(日本時間)に行われた日米首脳会談で焦点とされた環太平洋連携協定(TPP)について、全国紙各紙は同日夕刊でいっせいに「『全ての関税撤廃 前提とせず』 首相、米大統領と確認」(「読売」)などと報じました。首脳会談で合意された日米共同声明が関税撤廃の「例外」や「聖域」を認めたかのような報道でした。しかしこれらは、事実を偽るものです。
撤廃を確認
日米共同声明は「全ての物品が交渉の対象とされる」とし、すでにTPP交渉参加国で合意されている「TPPの輪郭(アウトライン)」を「達成していくことになることを確認する」とうたいました。「アウトライン」とは、関税と非関税障壁の撤廃が原則だと明記したものです。
また、「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」としていますが、交渉の場で“例外”を主張することを「認める」という程度にすぎません。
これを承知で「例外」「聖域」が確認されたかのように報じるのは、国民を誤らせる報道といわなければなりません。
全国紙がこうした報道をするのは、TPP推進の立場と無縁ではありません。
全国紙24日付社説は、足並みをそろえて「首相の姿勢を評価する」(「朝日」)、「TPPで早く存在感を」(「毎日」)、「TPP参加の国内調整が急務だ」(「読売」)などと首相の姿勢を持ち上げ、交渉参加をせき立てています。
そのうえで、「自民党の『聖域なき関税撤廃を前提とした交渉には参加しない』とした選挙公約を満たす内容」(「産経」)、「(自民党の)公約と交渉参加を両立させる今回の日米合意」(「読売」)、「安倍政権が交渉参加に踏み切る条件は整った」(「日経」)などとして、自民党の総選挙公約というハードルを乗り越えたかのように描いています。
満たされず
しかし、自民党の総選挙公約は6項目に及び、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、交渉参加に反対する」だけでなく「国民皆保険制度を守る」「食の安全安心の基準を守る」ことなどを掲げていました。「TPPのアウトライン」を「達成」するなら、これらすべてが台無しになります。
JA全中の萬歳章会長がこの事実に触れたうえで、「TPPの特徴である『聖域なき関税撤廃』を前提にしたものとしか理解できない」、「(自民党の)政権公約で示された6項目の判断基準が満たされているとは到底理解できない」と批判したのは当然です。
全国紙5紙はこうした指摘を十分に知りながら、何一つ反証を示さないまま「関税撤廃に例外があり得ることを認めた」(「毎日」)などと断定しています。「日経」に至っては「玉虫色の決着と見ることもできるが、ときには建設的な玉虫色が必要な局面もある」と書き、日米共同声明のごまかしを示唆しながら、それを是認して開き直る始末です。
しゃにむに
こうした報道の根底に横たわるのは、「財界中心」「アメリカいいなり」の立脚点を時の権力と共有し、民意と国益に背いてしゃにむにTPP参加に突き進もうという姿勢です。
本来、権力のごまかしを鋭く見抜き、隠された真実をえぐり出して国民に広く伝えることが、メディアの存在意義であるはずです。ごまかしを認識しながらその片棒を担ぎ、世論を誘導しようとする全国紙は、メディアの誇りを喪失しているというほかありません。(杉本恒如)
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