2月5日に液化水素の国内シェアほぼ100%を占め,来たるべき水素社会の研究開発で日本をリードする岩谷産業株式会社中央研究所の荘所正先生が来学され,国立研究開発法人科学技術振興機構次世代科学者育成プログラム事業の受講生と特別招待された小中学生あわせて20名に,水素社会における科学技術について実験講座を実施されました。
産業革命以降,私たちの生活はどんどん便利に,豊かになってきました。食品は冷蔵・冷凍によって長期間保管することができるようになり,私たちは飢えから解放されました。夜になったら灯りをともし,暑さ寒さはエアコンを利用することで,いつでも快適に生活することができます。こうした現代社会の便利な生活は,多くのエネルギーによって支えられています。そして,現在,そのエネルギー源として化石燃料が利用されています。化石燃料を燃焼させることによって,私たちは多くのエネルギーを手に入れて,安全で快適で便利な暮らしを送ることができるようになりました。その一方で,化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素はどんどん増えていき,二酸化炭素の大気濃度は産業革命以降1.4倍になってしまいました。そして,増えていく二酸化炭素は,地球から出ていくはずの熱を地球に閉じこめてしまう「地球温暖化」の原因となり,地球温暖化によって100年間で世界の平均気温は約0.7℃上がっています。このままでは二酸化炭素によって大きな気候の変化が起こり,多くの人の暮らしに影響が出てしまいます。そのため,世界で話し合いがすすめられ,1997年の京都議定書,2015年のパリ協定で,二酸化炭素を出す量をへらし,これ以上,気温が上がるのをおさえようという決定がされました。しかし,私たちの便利な暮らしは化石燃料から得られるエネルギーによって支えられています。二酸化炭素を出す量をへらすということは便利な暮らしに影響が出ることになります。そこで,二酸化炭素の量をへらしながら,私たちの安全で快適で便利な暮らしを支える科学技術が開発されています。
こうした研究の結果,化石燃料に代わって私たちの暮らしを支える新しいエネルギーとして期待されている技術が水素であり,岩谷産業株式会社様はこの水素を私たちの暮らしにとどけるための研究開発をされています。
水素は化石燃料とくらべてエネルギーの埋蔵量と燃焼で水しかできないクリーンさに優れています。水素は水の電気分解によってほぼ無限に得ることが可能なエネルギー源であり(図1),燃焼で発生するのは水だけなのでとてもクリーン(図2)で,かつ二酸化炭素を出すことがありません。
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図1 水から水素をつくりだすことができます(白い球:水素,赤い球:酸素)
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図2 水素の燃焼では水しか発生しません
そのため,エネルギー資源が少ない日本にとって,水素をエネルギー源とする社会,水素社会を支える技術はとても重要です。内閣も,戦略的イノベーション創造プログラムで水素社会についての研究をすすめています。
図3 荘所先生による講演
講座では,水素がどうして期待されているのかをご説明(図3)いただいた後に,まず水素を発生させて電力をつくりだす実験を行いました。プラスチックカップと替え芯,電池をつかって,水を電気分解してつくりだした水素を使って,電気エネルギーを得ることができるかどうかの実験です。子どもたちは,まず,ただの水では電気エネルギーが得られないことを確認した後,水の電気分解を行いました。電池をつないで電気が流れると,替え芯から見る見るうちに気体が発生する様子を子どもたちは興味深く観察しました(図4)。
図4 水を電気分解中
発生している気体の量をくらべて,水素が陰極から発生していることを確認した後,電池を外して電気分解を終了し,LEDに付け替えました。すると,LEDは赤く点灯しました!
家庭でもかんたんに用意することができる実験器具で,水素をエネルギーとする電池をつくることができました。子どもたちは点灯した光に驚くとともに,どうすれば明るくできるだろう,長く点すことができるだろう,もっとたくさん水素を発生させることができるだろうと,実験の条件を検討しました。
この「水素をエネルギー源とする電池」が,燃料電池の原理です。燃料電池は,排気ガスがクリーンで,振動がなく,エネルギー密度の高い次世代の電池として期待される科学技術で,私たちの身近な利用方法としては,自動車のエンジンとして使われています。荘所先生から国産燃料電池自動車であるトヨタ自動車株式会社のミライと本田技研工業株式会社クラリティをご紹介いただきました。岩谷産業株式会社様は,これらの燃料電池自動車に水素を入れるための水素ステーションの開発研究をされています。水素ステーションは,2016年現在,全国で100箇所程度ですが,政府の水素・燃料電池戦略ロードマップでは2025年までに320箇所程度に増やすことが計画されています。愛媛県には,いまだ水素ステーションがありませんが,あと20年のうちに愛媛県でも燃料電池自動車がふつうに走る時代が来るかもしれません。
つぎに水素という気体の性質を調べる演示実験を行っていただきました。水素は無色,無臭,無味の気体で,とても軽いことが特徴です。そのため,水素でシャボン玉をつくると,普通のシャボン玉とはちがい,まっすぐ上にあがっていくのです(図5)。
図5 水素は真上に上がります
また,水素のシャボン玉に火をつけると,炎をあげて燃え上がりました。水素が燃えるときには多くのエネルギーが出てくるのです。このたくさんのエネルギーをゆっくりと取り出す方法が燃料電池であり,短い時間にたくさん取り出すのがロケットエンジンなのです。そこで,岩谷産業株式会社様が自作された燃料電池自動車のミニカーを使って,燃料電池自動車と水素ステーションの仕組みについて学びました(図6)。
図6 燃料電池自動車のミニカーに興味津々
ミニロケットの打ち上げ実験では,子どもたちは発射スイッチを押すという大役に挑戦しました(図7)。カウントダウンとともに発射スイッチを押すと,ミニロケットが勢いよく飛び上がる様子を子どもたちは目を輝かせて見つめていました。
図7 ミニロケットの打ち上げ実験
水素は,理論上ほぼ無限に取り出すことができ,ロケットを宇宙に飛ばすほどたくさんのエネルギーを取り出すことができ,そして燃やしても水しかできないクリーンなエネルギー源です。さらに,電気は貯めておくと少しずつ放電してなくなってしまいますが,水素はへらさずに溜めておくことができ,エネルギーを保管する方法としても優れています。エネルギー資源の少ない日本にとって重要な科学技術であることをご紹介いただきました。
その後,岩谷産業株式会社様からご提供いただいたトヨタ自動車株式会社のミライに試乗させていただきました。ミライについての説明では愛媛トヨタ自動車株式会社様にもご協力いただきました。子どもたちは,次世代の科学技術が詰まった自動車の構造に興味津々で,さまざまな質問をしていました(図8)。また,試乗を通して日本の科学技術の高さを感じ,研究者を目指す志を新たにしたようです。
図8 ミニカーとくらべながら燃料電池自動車の仕組みを学ぶ
今回の実施では,岩谷産業株式会社様および四国岩谷産業株式会社様,愛媛トヨタ自動車株式会社様など多くの企業にご協力いただきました。子どもたちに貴重な学びの場を与えていただき,感謝致します。
本内容は,あいテレビおよび愛媛新聞で報道されました。
愛媛新聞「水素ぷくぷく、児童わくわく 愛媛大で講座」
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201702065283
この実施は,教育学部の大橋淳史准教授が実施主担当者を務める国立研究開発法人科学技術振興機構の次世代科学者育成プログラム事業「科学イノベーション挑戦講座」によって行われました。
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