愛媛大学ジュニアドクター育成塾

【優秀賞2件受賞】全国受講生研究発表会で発表しました

2016/11/22 18:00 投稿

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2016年11月19〜20日の両日,東京のJST東京本部別館で開催されました全国受講生研究発表会が開催されました。

全国受講生研究発表会の詳細は以下のサイトをご覧ください。
国立研究開発法人科学技術振興機構次世代科学者育成プログラム事業サイト
https://www.jst.go.jp/cpse/fsp/about/happyou.html

次世代科学者育成プログラム事業を受託する全国5事業体が一堂に会し,全国から優れた才能を持つ生徒が集まる1年に一度の重要なイベントです。この発表会に,本プログラムから選抜された6名の受講生が参加し,研究成果の発表を行いました。

本発表会では,口頭発表2件が審査の対象になりましたが,2件とも優秀賞を受賞することができました。惜しくも最優秀賞は逃しましたが,両発表が受賞したことは素晴らしい成果です!みなさん,お疲れさまでした。

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図1 関係者集合写真

以下にくわしい内容をご紹介します。

【1】11月19日:口頭発表2件
(1)「日持ち向上剤,食品保存料の効能を実感する簡易研究法の開発」
私たちの便利な生活を支えてくれる重要な科学技術として腐敗の防止技術があげられます。この食品の腐敗を防止する科学技術はふたつあり,ひとつは冷蔵・冷凍,ひとつは食品添加物です。どちらも私たちの生活の質(クオリティ・オブ・ライフ,QOL)をあげる科学技術として重要ですが,食品添加物,なかでも食品保存料は悪者にされがちです。そこで,私たちは,食品添加物の効能を誰でも確かめることのできる簡易実験方法の開発を行いました。

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図2 微生物には細胞核を持つ真核生物と細胞核を持たない原核生物がいます

誰でも安全に簡単に実験をするためには,食中毒の原因となる原核生物である大腸菌や黄色ブドウ球菌や,真核生物であるカビなどを用いることはできません。そこで,私たちは安全で簡単に用いることのできるモデル微生物を設定しました。モデル原核生物として乳酸菌,モデル真核生物としてイースト菌を用いて,食品添加物の効能を調べました。日本化学会中国四国支部大会高校生ポスターセッションからの進展として,モデル真核生物での予備実験を追加しています。

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図3 口頭発表

本研究は,株式会社ウエノフードテクノから食品添加物をご提供いただき,またご支援をいただきました。この場を借りて深く感謝致します。

(2)「植物工場で利用できる紙を利用した培地の開発研究」
農業とは,重労働で休むことができず,収穫は天候に大きく左右され,ときには災害によって何も収穫できない,とても大変な職業です。そのため,農業のなり手は減っています。農林水産省の農林業センサスによると,私たちの住む愛媛県では,農業の就労人口率は1990年の8%から20年後の2010年に3%まで減少しています。この傾向は世界的なもので,農業を主要な産業としている発展途上国の若者は,農業ではない職業を目指す人が増えています。一方で,世界人口は増加を続け,2050年には90億人まで増えると言われています。人口が増え,食糧増産が課題となるなかで農業は衰退しています。
こうしたなかで,植物工場は,栽培条件を制御して収穫を一定にすることができ,農家を重労働から解放することができ,また高い生産価値をもつ植物を栽培することで職業の安定化も期待できる農業の新しい形として期待されています。そこで,私たちは,植物工場で利用できる紙を利用した培地の開発研究を行いました。

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図4 検討した培地

35種類の培地から,保水率(=(○日後の培地の質量÷初日の培地の質量)×100)の高い,ティッシュペーパー,キッチンペーパー,トイレットペーパー,牛乳パックを選び,それぞれの培地の質量と給水回数を調べました。日本化学会中国四国支部大会高校生ポスターセッションからの進展として,LED光(青色,緑色)と,は虫類保温用赤外線ランプ(遠赤〜赤外光),ブラックライト(近紫外光)の効果を追加しています。その結果,植物の種類によって必要とする光が異なることが示唆されました。

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図5 栽培結果

本研究は,農研機構九州沖縄農業センター,中原採種場株式会社に助言をいただきました。この場を借りて深く感謝致します。

【2】11月20日:ポスター発表4件
上記2件に加えて,以下の2件の発表を行いました。
(3)「愛媛県におけるメタン発酵菌の探索研究」
私たちが生活する環境には,たくさんの菌がいて,さまざまな活動をしています。この菌をうまく活用する方法を人間は考えてきました。たとえば,麹菌は野生の麹菌を長く培養して,私たちにとって有利な性質を受けつがせているため,2006年に日本醸造学会によって国菌として認定されています。また,菌は存在する地域による独自性を持っていることが知られています。2015年にノーベル賞を受賞された大村智先生は,さまざまな土地の土着菌を分離して,イベルメクチンを生産するための放射菌を発見されました。
そこで,本研究では愛媛県の土着菌から有用な菌を探索する研究を計画し,メタン発酵菌に注目しました。メタン発酵菌は,空気を嫌う嫌気性発酵菌の一種であり,おもに水中の汚泥にいて,田んぼの泥,川底の泥,学校の池の底の泥など,いろいろな場所にいると言われています。メタン発酵菌は,水にふくまれる有機物を分解して,水をきれいにするため環境浄化菌としても知られています。そして近年ではメタンを燃やして電力を得るクリーンエネルギーとして利用する方法が実用化されています。本研究では,メタン発酵菌のメタン生成能力を調べるための装置の設計と開発,そして,メタン発酵菌のなかでも,環境浄化能力が高くて,メタンをたくさん生成するメタン発酵菌を探すことを目的としました。

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図6 大盛況でした

本研究は鹿島建設株式会社の開発した工業用メタン発酵菌「メタクレス」に関連して,鹿島建設株式会社および霧島酒造株式会社に研究のご示唆をいただきました。この場を借りて深く感謝致します。

(4)「家庭でも入手しやすい酢酸菌の研究」
酢酸菌は不思議な菌です。酢酸菌は,高濃度の糖やアルコールを含む花蜜や果実,そしてそれらの果実酒などのなかで,さまざまな微生物と共存,競合しています。酢酸菌は,他の酵母菌や乳酸菌,その他菌類を出し抜いて自分だけが生き残るための秘密兵器として,特定の糖やアルコールを他の菌群が利用しにくい酢酸などに素早く分解して,高濃度の酸性溶液をつくり出す能力を持っています。この酸化発酵とよばれる特殊な発酵は,共存する微生物の糖やアルコールの利用を阻害すると同時に,それら微生物の生存に不向きな酸性環境をつくり出します。

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図7 酢酸菌は他の微生物と違って細胞膜で酸をつくり出します

もちろん酸性環境は酢酸菌自身にとっても,よい環境ではありません。しかし,酢酸菌は自分がつくり出した酸による低pH環境に,比較的長く耐えることができます。酢酸菌は自分自身も苦しむ環境をつくり出して,他の菌群を死滅させるのです。そして,一定時間後に酸をつかって再びふえていく能力をもっています。人間は酢酸菌の生存戦略である酸化発酵を古くから食酢醸造として利用してきましたが,まだ知られていない有用な酸化発酵系や酢酸菌の酸化発酵系がまだ存在する可能性も指摘されています(1),(2)。そこで,本研究では,家庭でも入手しやすい酢酸菌を用いて,酢酸菌の反応機構を調べることを計画しました。

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図8 得られたセルロースゲル

この実験では酢酸菌のいるセルロースゲルが大きくなっているのに,水溶液のpHが変化しないことが課題でした。日本化学会中国四国支部大会高校生ポスターセッションからの進展として,この水溶液のpH変化について検討しています。

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図9 酢酸菌の研究は珍しいため多くの方に興味を持っていただきました

参考文献
(1) 外内尚人,酢酸菌利用の歴史と食文化,日本乳酸菌学会誌,Vol.29,No.1,6-12,2015.
(2) 松下一信,好気呼吸による「発酵」を行う酢酸菌,生物工学,第90 巻,第6 号,340-343,
2012.

【3】発表後と表彰
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図10 ポスター発表が終わって

口頭発表の受賞者の代表は,表彰式で答辞を述べました。
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図11 答辞

あっという間の2日間でしたが,多くの受講生と触れ合う密度の濃い時間を過ごして,受講生たちは意欲を向上させました。今後の活躍が期待されます。

追記:2016年11月28日
株式会社ウエノフードテクノ様の表記に誤りがあり,修正しました。

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