1 水ロケットの設計について説明
実施前に,共同研究の準備として行っている,水ロケットの設計について4つのグループから発表がありました。新田青雲中等教育学校チームおよび附属小学校チームは,1号機の試作や発射試験について説明してくれました。残り2チームは試作機の設計についての話し合いの結果を説明してくれました。それぞれの設計に独自性があり,完成が楽しみです。
2 デンプンの加水分解反応を考えよう
私たちがデンプンとよんでいる物質には,アミロース(図1)とアミロペクチン(図2)の2種類があります。アミロースは,水に溶けやすく,ヨウ素デンプン反応で青紫色に呈色します。つまり,私たちが普段デンプンとよぶときには,アミロースのことを言っているのです。一方で,私たちが食べる炭水化物としてのデンプン,たとえば,お米やジャガイモには,アミロースの3〜4倍のアミロペクチンが含まれています。私たちは,デンプンとしてアミロペクチンをたくさん食べているのに,アミロースをデンプンとして考えているのです。「知っている」と思っていると見えてこない不思議が,自然の世界にはたくさんあるのです。
図1 アミロース
図2 アミロペクチン
デンプンの加水分解とは,アミロースやアミロペクチンに,水を加えて分解する反応です。加水分解によって,デンプンから麦芽糖やブドウ糖(図3)ができます。デンプンはブドウ糖をたくさんふくんでいるので多糖類,麦芽糖はブドウ糖が2分子あるので二糖類,ブドウ糖はブドウ糖が1分子なので単糖類とよんでいます。
図3 麦芽糖(左)とブドウ糖(右)
では,単糖類,二糖類,多糖類は,ブドウ糖の数以外に何がちがうのでしょうか?
たとえば,味はどうでしょうか?
単糖類のブドウ糖の味を知っているでしょうか。ブドウ糖は,果実やはちみつにふくまれていて,「甘い」味をしています。ブドウ糖のかたまりを食べたことがある人もいるかもしれませんね。ブドウ糖とおなじ単糖類には果糖もあります。果糖も果実などにふくまれていて,「甘い」味がします。
二糖類の麦芽糖はどうでしょうか。麦芽糖は水あめの「甘さ」です。おなじ二糖類には砂糖もあります。麦芽糖と砂糖の「甘さ」はどのようなものでしょうか。
デンプンは多糖類です。おなじ多糖類にはデキストリンがあります。これらは「甘い」味はしませんね。
味について考えてみましょう。甘さは多糖類より二糖類,二糖類より単糖類が「甘い」と言えるでしょうか。それとも,二糖類が一番「甘い」のでしょうか。もしかすると,単糖類,二糖類,多糖類という区別は「甘さ」とは関係がないのでしょうか。
前回は「匂い」だったので,今回は「甘さ」について考えています。人間の五感を科学しましょう。
3 デンプンの加水分解をしよう
デンプンの加水分解を,硫酸,塩酸,α−アミラーゼ(動物から取れる),β−アミラーゼ(植物から取れる),蒸留水の5つの条件で行いました。実験時間は短いですが,忙しい実験なので,油断できません。役割を分担して,すばやく,しっかりと実験をする必要があります。
図3 加水分解を尿糖試験紙とヨウ素デンプン反応で調べます
図4 ヨウ素デンプン反応の結果をくらべよう
まず,常温の水で反応を行いました。反応温度は約25℃です。事前学習で多くの受講生は,もっとも速いと予想していた硫酸水溶液は,ほとんど反応が進んでいませんでした。酸ならば,すばやく反応が進むと思っていたので,みんな首をひねりました。
また,この実験では受講生に新しい発見もありました。ヨウ素デンプン反応の色が一定ではないのです。ヨウ素デンプン反応は定性的な分析ですから,色の濃さはデンプンの量を表しているとは限りません。しかしながら,青紫色が濃くなったりうすくなったりするのは話が別です。どうして,濃くなったりうすくなったりするのでしょうか?
観察した現象について,良く考察する必要があります。この実験では,硫酸や塩酸の水溶液の酸性を中和するために炭酸ナトリウムを加えました。ここに秘密がありそうです。デンプンを硫酸水溶液で加水分解する実験は,高等学校化学の教科書にも載っている実験ですが,教科書ではヨウ素デンプン反応をつかいません。それはヨウ素デンプン反応は中性付近でしか観察できないからなのです。硫酸や塩酸が加えられた水溶液にヨウ素を加えても呈色しません。一方で,大量に炭酸ナトリウムを加えてしまうと,溶液がアルカリ性になってしまい,やはりヨウ素デンプン反応は呈色しないのです。つまり,酸性を中和するときに気をつけないといけないのです。このように自分自身で実験条件を制御して行う実験では,
次にα−アミラーゼとβ−アミラーゼで,おなじように反応を行いました。こちらは中和する必要がありませんので,ヨウ素デンプン反応の不思議は起こらないはずです。しかし,ここでも不思議なことが起こりました。α−アミラーゼは,すぐにヨウ素デンプン反応の青紫色の呈色が見えなくなったにもかかわらず,β−アミラーゼは,いつまでもヨウ素デンプン反応の青紫色の呈色が見えています。
図5 ヨウ素デンプン反応の結果(左がα−アミラーゼ,右がβ−アミラーゼ)
おなじアミラーゼであるにも関わらず,どうしてα−アミラーゼとくらべて,β−アミラーゼは非常に反応が遅いのでしょうか。いよいよ謎は深まりました。得られた水溶液は,尿糖試験紙で糖ができているかを調べています。
図6 尿糖試験紙で比色分析します
(1)ヨウ素デンプン反応:デンプンがあるかどうか
(2)尿糖試験紙:単糖類や二糖類があるかどうか
ひとつの測定だけではわからないことも,ふたつの方法で調べることで調べることができます。このように科学研究では,複数の方法で,複数回,チェックした上で,その実験結果が「ただしい」かどうかを調べます。
ヨウ素デンプン反応は,小学校から行っている実験で,だれでも見たことがあると思います。そして,デンプンの消化は,私たちが生活の中で日常的に行っている「食事」です。そこには何の「謎」もないと,みなさんは思うかもしれません。しかし,「知っている」という思いこみをもたずに現象を観察すると,この世界には不思議なことはたくさんありますし,私たちは「何も知らない」ことがわかると思います。
匂いや味といった,人間の五感に関わることすら,私たちは知らないのです。不安に思うでしょうか?
科学者は逆の感想を持ちます。「知らない」からこそ「知りたい」と思いますし,「わからない」からこそ「おもしろい」のです。
次回,7月16日は,この反応の温度を上げたときにどうなるかを調べていきます。常温では,サッパリだった硫酸と塩酸が巻き返しをすることはあるのでしょうか?楽しみですね。
4 水ロケット打ち上げ試験
製作した水ロケットの打ち上げ試験を行いました。2チームが製作した4つのロケットで打ち上げ試験を行いました。そのうち,1つのロケットは空高く舞い上がり,飛距離47 mを記録しました。ノーズコーンや尾翼,水の量,空気の量,発射角度まで自分たちで検討しながらの第1回打ち上げ試験としては上々の成果と言えるのではないでしょうか。次回以降は,他のチームも記録を伸ばしてくると思います。9月11日の工作課題発表に向けて,がんばっていきます。
図7 飛距離47 mの水ロケット打ち上げ
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