━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
山田玲司のヤングサンデー 第310号 2020/10/5

「愛の不時着」が大ヒットする理由

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今回のヤンサンは「ザ・ボーイズ」と「愛の不時着」の解説でした。


ザ・ボーイズの「ピントがあった現代性」に対して「不時着」の方は実にクラッシックな恋愛劇でした。


見事にエンタメ化された「現代の朝鮮半島を舞台にしたロミオとジュリエット」になってます。




今回詳しく語りましたが「愛の不時着」は「ディズニー的な演出」が実に目立つドラマです。


深刻な現実を抱えた「現存する場所(朝鮮半島)」を、おとぎ話の世界のように演出することで、現実の国とは別のものに見えるようになっているわけです。


面白いのは「不時着」の世界では、かつてのディズニー作品に出てくるような「理想の王子様」が出てくる事。


この「王子様」の完成度がすごいのは言わなくてもいいでしょう。




【重すぎた王子様幻想】


ディズニーランドに行くと、何人もの小さな女の子が「お姫様」の格好をして楽しそうに歩いてる。


目の前には大きなお城があって、パレードには素敵な王子様がいて、笑顔で手を振ってくれてたりする。


そんなふうに沢山の少女が「私はお姫様」「いつか最高の王子様と出会える」と信じる仕掛けになっているのが「ディズニーの世界」だ。



そこまでは微笑ましい「夢の世界」だけど、その後に訪れる「殺伐とした現実」を考えると、この刷り込みは中々にハードでもある。



そもそも「誰もがお姫様なのです」というのは無理がある。


そんなにお城は作れないし、お姫様が暮らすには大量の「僕(しもべ)」が必要だ。


「王子になれ」と言われる側の男も、自分たちと同じ「平凡な普通の人間」なのだ。


現代の女性は、こんな「当たり前の事」を認めるのに苦労させられてきた。




ディズニー映画の制作陣もその問題には気づいていて、時代遅れになった「男まかせのお姫様幻想」から「1人の人間として明るく生きよう」というテーマに向かい始めた。


それが「アナと雪の女王」だったわけだ。




【愛の不時着という救済】


そうは言っても「頼れる男」は欲しい。


「王子様と出会う私」なんて、幻想だとわかっているのだけど、夢は見たいのだ。


愛の不時着の1話に「パラグライダーが不時着して、大きな木にに引っかかったヒロインと北朝鮮の(イケメン)軍人が出会う」という印象的なシーンがある。


この時のヒロインの「降りられない」という状況が現代の女性の「ある種の状況」を象徴的に示している。


ヒロインは経済的に成功して「上の世界」にいるけど、自分では降りられない。


降りられないのは「受け止めてくれる人」がいないからだろう。


そんな「宙吊り」の彼女に男は「自分で降りろ」と命令し、落ちてきた彼女を体を張って受け止める。


それが北朝鮮の軍人「リ・ジョンヒョク」なのだ。


ディズニー映画が「まともな王子なんていません」と「アナ雪」で切り捨てた「王子様」がここにいた。


どこにもいなかったけど、よく知らない国「北朝鮮」にはいるかも、というラインで復活を果たしたというわけだ。


「少しも寒くないわ」と言ってはみたが、寒いものは寒いのだ。


というわけで「不時着」は大ヒットしたのだと思う。




【南北逆にすると見えてくるもの】


このドラマは、韓国の女性が北朝鮮の男と出会う、という話だ。


この設定を男女逆、南北逆、にしてみると、旧ディズニー映画の「シンデレラ」そのものになってしまうのが面白い。