「愛の不時着」が大ヒットする理由
今回のヤンサンは「ザ・ボーイズ」と「愛の不時着」の解説でした。
ザ・ボーイズの「ピントがあった現代性」に対して「不時着」の方は実にクラッシックな恋愛劇でした。
見事にエンタメ化された「現代の朝鮮半島を舞台にしたロミオとジュリエット」になってます。
今回詳しく語りましたが「愛の不時着」は「ディズニー的な演出」が実に目立つドラマです。
深刻な現実を抱えた「現存する場所(朝鮮半島)」を、おとぎ話の世界のように演出することで、現実の国とは別のものに見えるようになっているわけです。
面白いのは「不時着」の世界では、かつてのディズニー作品に出てくるような「理想の王子様」が出てくる事。
この「王子様」の完成度がすごいのは言わなくてもいいでしょう。
【重すぎた王子様幻想】
ディズニーランドに行くと、何人もの小さな女の子が「お姫様」の格好をして楽しそうに歩いてる。
目の前には大きなお城があって、パレードには素敵な王子様がいて、笑顔で手を振ってくれてたりする。
そんなふうに沢山の少女が「私はお姫様」「いつか最高の王子様と出会える」と信じる仕掛けになっているのが「ディズニーの世界」だ。
そこまでは微笑ましい「夢の世界」だけど、その後に訪れる「殺伐とした現実」を考えると、この刷り込みは中々にハードでもある。
そもそも「誰もがお姫様なのです」というのは無理がある。
そんなにお城は作れないし、お姫様が暮らすには大量の「僕(しもべ)」が必要だ。
「王子になれ」と言われる側の男も、自分たちと同じ「平凡な普通の人間」なのだ。
現代の女性は、こんな「当たり前の事」を認めるのに苦労させられてきた。
ディズニー映画の制作陣もその問題には気づいていて、時代遅れになった「男まかせのお姫様幻想」から「1人の人間として明るく生きよう」というテーマに向かい始めた。
それが「アナと雪の女王」だったわけだ。
【愛の不時着という救済】
そうは言っても「頼れる男」は欲しい。
「王子様と出会う私」なんて、幻想だとわかっているのだけど、夢は見たいのだ。
愛の不時着の1話に「パラグライダーが不時着して、大きな木にに引っかかったヒロインと北朝鮮の(イケメン)軍人が出会う」という印象的なシーンがある。
この時のヒロインの「降りられない」という状況が現代の女性の「ある種の状況」を象徴的に示している。
ヒロインは経済的に成功して「上の世界」にいるけど、自分では降りられない。
降りられないのは「受け止めてくれる人」がいないからだろう。
そんな「宙吊り」の彼女に男は「自分で降りろ」と命令し、落ちてきた彼女を体を張って受け止める。
それが北朝鮮の軍人「リ・ジョンヒョク」なのだ。
ディズニー映画が「まともな王子なんていません」と「アナ雪」で切り捨てた「王子様」がここにいた。
どこにもいなかったけど、よく知らない国「北朝鮮」にはいるかも、というラインで復活を果たしたというわけだ。
「少しも寒くないわ」と言ってはみたが、寒いものは寒いのだ。
というわけで「不時着」は大ヒットしたのだと思う。
【南北逆にすると見えてくるもの】
このドラマは、韓国の女性が北朝鮮の男と出会う、という話だ。
この設定を男女逆、南北逆、にしてみると、旧ディズニー映画の「シンデレラ」そのものになってしまうのが面白い。
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