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山田玲司のヤングサンデー 第275号 2020/2/3

タイガー&リリー

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いやぁ、まいったまいった。


まさかあんなにおもしろくて味わい深いとは、本当にびっくりしたねぇ。


え?


何がって?


そりゃアンタ、寅さんのことさ。


こないだはあんまりおもしろいんでつい入れ込んじまったもんだから、何喋ったかも覚束ねぇので、今一度整理して話そうかなと思ったけど、それもなんか野暮な気もするんでまぁいいや。


「マレビト」「妹の力」「漂泊」「いきの構造」「恋」…このあたりのこと、日本の真髄ですんで、もし気になってたらぜひ自分でお調べになってつかぁさいな。


てことでまた来週〜!

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……ってわけにもいかねぇから、野暮を承知でちょいとだけ、言い残したことひとつふたつ。


ちょっと話飛ぶけれどそこのお兄ぃさんお姐ぇさん、「ピーター・パン」はお好きでございますでしょうか?


スコットランドの作家J・M・バリの遺したどえらい傑作近代寓話「ピーター・パン」。


ほとんどの人はDのアレンジが入ったピーターしか知らないだろうが、本物のピーターパンはソンザイが揺さぶられるほどおもしれぇから読んでみてくんな。


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で、俺はその原作のピーターが大好きなんだけどさ、あんだけ飽きっぽいピーターは、自分が歳を取らないとこになんで飽きてしまわねんだろうかと、ふと思ったのよ。


もしそれに気づいたら、ピーターはきっと歳を取ろうとするんじゃねぇかなと。

そうするとちゃんと歳をとって子供を作って家族を大事にするウェンディたちの世界にこそ、憧れるんじゃねぇかなって。

ウェンディたちにとってネバーランドは確かに夢の国だけど、もしピーターにとってウェンディの世界、つまり堅気の世界が、ピーターにとってのネバーランドに見えたとしたら、さてどうするかなぁ。


まぁそんなこと想ってた時があってね、不思議なことに寅さん見てるとそのことを思い出しちゃってさ。

つまりあれだよ、俺が想ったピーターが、寅さんと重なって見えたんだよな。

ピーターは元々、ケンジントン公園の孤児だし、寅も同じようなもんだ。

そりゃま、ずいぶんおっさんのピーターだけども、自分はヤクザな渡世人で、堅気の世界に迷惑かけらんねぇと言いながら、どこか普通の暮らしってやつに根源的に憧れている、それはピーターにとってのウェンディたちのいる世界への憧れとしたら凄い納得できてさぁ。


それに寅さんが歳をとるピーターってことはつまり、掟を破ったネバーランドの落伍者、楽園の堕天使みたいなもんで(そうすると玲司さんの寅さん守護天使説ともなんかつながる)、堕天使寅次郎、いや寅パンにとっての新しいネバーランドはさくらたちのいる、堅気の世界なんだろうよ。


ホントはそこにずっといたいから、誰かに恋をして誰かの世話をして喧嘩して笑って泣いてやってるんだけども、哀しくも寅パンたちは元天使、それはぜ〜んぶ「ごっこ遊び」なんだよな。


これ、原作読んでくれたらよくわかるけど、ピーターパンは「つもり」しかできない。

本気で必死に「ごっこ遊び」はできるけど、「つもり」が「ホント」になると、途端に飽きちまう。

だから白昼夢の中を永遠に「ごっこ遊び」に興じて、飽きたらまた風に吹かれて別の遊びを探しに行くのがピーターなのよ。


寅もおんなじ。


「恋人のつもり」「旦那のつもり」「亭主のつもり」そして自分のやってることも「商いのつもり」。

ほら、寅さんが売ってるもの、毎回違うだろ?

しかも口八丁で嘘ついて。

つまり「つもり」を生業にしてるわけさ。


しかも自分やマドンナだけじゃない、さくらにだって「兄貴のつもり」を演じてるわけよ。


そしてすぐ忘れちゃう。


あのリリーのことだって、「ハイビスカスの花」でさくらが寅に、リリーさんが会いたいって言ってたよと伝えたら「リリー?どこのリリーだい?」という始末…。


飽きる、忘れる、何処かへ行く。


これがピーターであり寅なんだ。


「ホント」を夢見て「つもり」を演じるしかできない年老いていくピーターパン・車寅次郎の物語は、絶対的な「断絶」と「孤独」の物語でもあったわけ。


だからウェンディ(マドンナ)とは一緒になれない。


…でも、リリーだけは違った。