平衡感覚がおかしかった。
――私が、人を殺した?
そんなわけない、と、つい先ほどまで信じていた。
でも確かに私は、センセイの紅茶に薬を入れた。
白いカプセルの、なにも書かれていない薬だった。
毒薬? まさか。毒薬ってあんな風なものなの?
信じられない。でも――
私は久瀬くんに連れられて、ひとつ手前の部屋に移動する。あの、数字の埋まった50音表のある部屋だ。
「君じゃない」
と久瀬くんが言う。
「でも。私、薬入れたよ?」
久瀬くんの声は冷静だった。
「死因がなんだったとしても、犯人はナイフでセンセイを刺したんだ。君じゃない誰かがあの部屋にはいた。そいつが犯人だ、と考えた方が自然だ」
「でも、私が入れた薬で人が死んだんだよ」
「だとしても君は悪くない。誰かが君のせいだって言ったならオレが怒鳴り返してやる。君自身が君のせいだっていうなら、いつまでもオレが反論してやる。君は悪くない。ただ巻き込まれただけの不運な被害者だ」
冷たいくらいに真剣な顔で、そう言ってから彼はふっと笑った。
「実は昔から、君を尊敬してたんだ」
「え?」
尊敬?
「なんて言ったかな。クラスにいた、偉そうな女の子」
「景浦さん?」
「そう。その子と、友達のために戦ったんだよな」
そういうのって格好いいよと彼は言う。
ああ、やっぱりこの人は久瀬くんだ。
彼は自分のことは棚にあげて、人のことばかりをほめるんだ。
「オレは格好いい奴の味方だから、君は裏切らないよ。そもそも、まだ君が入れた薬のせいだって決まったわけじゃない。本当にセンセイが死んだのかもわからないんだ。落ち着いて、ゆっくり考えていこう」
スマートフォンをいじりながら、彼は呟く。
「冤罪なんてものを、ソルが許すはずないんだ」
ソル。
私はその名前を知っている。
ラピス @rapiss
大丈夫だ美優ちゃん、ソルは君の無実を知っている
さかながさかさかな @sakanagasakasa
久瀬くんはやっぱ主人公だなぁ
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