オレは軽く息を吸って、吐く。
なるたけ明るい口調で告げる。
「おいおい、冗談だろう?」
メリーの声は相変わらず冷たい。
「嘘をつくのは、良い子ではありません」
「本当になかったのかい? よく調べた?」
「もちろん。そして、貴方もそれを想定していたはずです」
「……どうして?」
「でなければ、貴方自身が缶の中身を確認していない理由がありません」
まったくだ。
あれにヒーローバッヂが入っていたなら、それでよかった。
でもふたをひらいて、その中に望んだものが入っていなければ、どうしようもない。オレは上手く演じなければならなかった。
「状況を考えれば、あれの中にヒーローバッヂがあることは、疑いようがなかった。調べるまでもない。そう思ったんだよ」
「それは少しだけ嘘ですね」
メリーの口調は変化しない。
「貴方は、タイムカプセルの中身がなんであれ、それで私に連絡を取るつもりだった。だから中身をみなかった。『ヒーローバッヂをみつけた』という報告を、嘘ではなくただの勘違いにするために」
実のところ、ほぼ確実に、あの缶の中にはヒーローバッヂがあると思っていた。だからこの展開は、予定外だ。でも想定外ではない。
最悪の可能性に備えて、オレはあの蓋を開かなかった。
「貴方は、なんのために、私と連絡を取りたかったのですか?」
とメリーは言った。
――本当は、メリーとは直接顔を合わせて話したかった。
この話は極めて内密に進められるべきものだから。
電話は最適ではない。でも仕方がない。強引にでも、話を先に進めるしかない。
「君と手を組みたかったんだ」
オレは、ゆっくりと告げる。
――あの夜、雪という女性から電話できいたことは、決定的な情報になり得る。
「本物の『良い子』は、ヨフカシだけが知っている」
と、オレは口に出して言った。
それは、つまり、
「君は本物の『良い子』じゃない」
※
プレゼントの、発生の手順は少し複雑だ。
それはセンセイによって生み出される。でもセンセイが直接、プレゼントを手渡すわけではない。
オレも、ニールもプレゼントを貰った。でもふたりとも、プレゼントを受け取った年は、聖夜協会のパーティには参加していなかった。
――オレたちはふたりとも、「良い子」からプレゼントを受け取った。
センセイは良い子を選ぶ。その年、いちばんの良い子を。
良い子のプレゼントには願いがこもる。それは特別な力になる。
オレのとき、その「良い子」はアイだった。彼女のプレゼントには確かに願いがこもっていた。
良い子自身がプレゼントを受け取るのではなく、良い子が選んだ誰かが、良い子の望んだ奇跡のような力を得る。
――協会内で、次の「良い子」はメリーだといわれている。
センセイが消える前に、そう約束したと。
だから彼女は絶対的な権力を持っている。
彼女からの「クリスマスプレゼント」を、誰もが求めている。
――でも、雪の話が確かなら、その根底が崩れる。
メリーが本物の良い子ではないのなら、協会内で彼女が権力を持つ根拠が、根底から瓦解する。
※
「誰にも話していないことだ。オレの胸の内にだけ、留めておいていい。秘密は得意なんだ」
笑って、オレは告げる。
「だから、メリー。オレと手を組まないか?」
今日はこの交渉さえできれば、それでいい。最低ラインは超えられる。
メリーは相変わらず、肯定も否定もしなかった。
「貴方の目的は、なんですか?」
「ほかの会員たちと同じだよ。プレゼントが欲しいだけだ」
「それで、どうして私と手を組みたがるのですか?」
多くの協会員にとって、メリーはあくまで「プレゼントを受け取る人間を選ぶもの」だ。採点装置のようなもので、ゲームのルールで、それ以上ではない。
でもオレからみれば、まったく彼女の立場は違う。
「君がしていることに興味があるんだよ。もっとも聖夜協会について詳しく、センセイについても詳しいだろう君が、この集団でなにをしようとしているのか」
大枠をみる必要がある。協会内のごたごたから、外まで足を踏み出す必要がある。きっとそうしなければ、プレゼントは手に入れられない。
そして、メリーだけが、協会から足を踏み出しているようにオレにはみえる。
楽しげな声でメリーは笑った。
「貴方はきっと、とても優秀なのでしょうね」
どうかな、とオレは笑う。
「でも」
メリーは言った。
「貴方はまだ、根本的な勘違いをしています」
唾を呑む。
その言葉で、完全にわからなくなった。
メリーの思考も、目的も、オレ自身の立ち位置も。
ふいに見失ったような気がした。
「もうすでにずっと昔から、私は聖夜協会なんてものに興味はありませんよ。ただ仕方なくこの立場を受け入れているだけです」
――なんだ、それは。
「君は、なにがしたいんだ?」
「貴方にはわかりませんよ」
「いや。そんなことはどうでもいい。これまで聖夜協会を欺いていたと知られれば、君はただでは済まないはずだ」
聖夜協会は、一部が過激で、暴力的だ。
これまで絶対者だったメリーが無価値だと知れ渡れば、必ず彼女にとって、大きな不利益になるはずだ。
だがメリーは、オレの話に見向きもしなかった。
「貴方が精一杯考えて、できる限りの努力をしたことはわかりますよ」
それはオレを慰めるような。
むしろ同情するような声で、言った。
「だから、貴方が求めているプレゼントをあげましょう」
ドイル、と彼女は呼びかける。
あくまで優しい口調で。
「ドイル。貴方に与えられたプレゼントは、『連絡』ですね。望んだ相手からの連絡が得られるプレゼント。微力ながら使いようによっては非常に強力なプレゼントです。ですが相手がそのことを知っていると、『連絡する前に』我に返ってしまう」
そうだ。
――相手に、明確な「拒否する理由」がない限り、必ず望んだ相手から連絡がある。
それが、ドイルの書き置きと呼ばれるプレゼントだ。
絶対的にオレと敵対している。プレゼントの効果で連絡を取ろうとしているのだと悟られる。昏睡状態にある。すでに死亡している。
そんな理由がない限り、オレが望めば、電話が鳴る。
「だから貴方が、望んだ『連絡』をあげましょう」
かちり、となにかが切り替わるような音が聞こえた。
なぜだか、電話の向こうからメリーがいなくなったのが、はっきりとわかった。
そして。
スマートフォンの向こうから、彼女の声が聞こえた。
inamura @onthedish 2014-08-18 20:17:45
連絡!なるほど連絡か!!
あいう @aiu_096 2014-08-18 20:20:38
あ、やべぇ
メリー様これ持ってる子かもしれん
雑食人間@3D小説大阪現地愛媛遠征組 @zassyokuman 2014-08-18 20:21:21
あぁそうかそうか!良い子はメリーにも適応されるのか!どうして気が付かなかったんだろ。
ヴァニシング☆コウリョウ @kouryou0320 2014-08-18 20:21:03
あああ、やっちーがプレゼントぶっ壊されるのかこれ
東雲いしる @isil5121 2014-08-18 20:25:56
八千代の能力が明かされたけど、今回の更新以前だったらソルの連絡が八千代に行く可能性もあったのかな?
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
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なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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